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DISERD extra chapter*読み切り 『想うが故に 〝another episode〟』

「たっちゃぁ~ん」
 間抜けな声呼んでいる。
 神社から戻った俺を待ち受けていたのは、酒に酔ったショウゴだった。
「お前、飲み過ぎだ」
「たっちゃんが遅いからぁー。あ、ねーねー。オレっちのことまさって呼んでよー」
「は?」
 またいきなり訳がわからないことを言い始めた。それは酔っていても酔っていなくても同じか。
「ほらぁ、たっちゃんの字は[たつ]って書くでしょー」
 リュウジは宙に龍と描いてみせる。
「だからなんだ」
「だから、たっちゃん~」
 ……そうだったのか。
「んでー、オレっちは[まさ]って書くでしょー」
「だからまさと呼べと」
「そーいうことぉ~」
 俺にまでふざけろと言うのか、このお気楽人は。
「ねーねー、まさって呼んでぇ~」
 どれくらい飲んだのか知らないが、いつもに増して厄介なショウゴに俺はお手上げ状態だった。
「あ! そうだー、たっちゃん~。さっきリンゴ飴買ったのー」
「……そうか」
「たっちゃん、食べてぇ~」
「……俺は甘いものは苦手だ」
 いつもなら、「えー」というくらいで済むのだが、今日はそういうわけにはいかなかった。
「ほらぁ、たっちゃん。あ~んしてー」
「いらん。離れろ……」
「せっかく買ったのにぃ~」
 いいからさっさと離れろ。
 次の瞬間、俺は究極の二択を迫られる。
「あ! ねぇ、たっちゃん!」
「あ?」
「オレっちのことまさって呼ぶか~、このリンゴ飴ぱくーってしてぇ~」
 ……俺に死ねと言っている。
 この時ほど、ショウゴの頭上に水龍様を降ろしたくなったことはない。
 両方断る。などと言えば更なる仕打ちを仕掛けてくるに決まっている。
 ショウゴは実に愉快だと言わんばかりに鼻唄を歌っていた。
「……まさ、わかったから離れてくれ」
 にやりとショウゴが笑みを浮かべる。
「わぁ~い。これからオレっちはたっちゃん、たっちゃんはまさって呼び合うんだよぉー」
 俺が完全に敗北を喫した一戦だった。
「わかった……わかった……」
 今にして思えば、これも良い思い出と言えるだろうが、当時の俺には屈辱以外何ものでもなかったのだ。
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