禍月の舞*Past Memory 『想うが故に 〝影〟』
ビリビリとする空気が痛い。
親友の妹であるミズナは何かに取り憑かれたようだった。
「何故、私が呼び起こされた……? 答えろ、コウキ!!」
小さい体躯から発せられる異常な威圧感。ミズナのものとは思えない声が、道場に響き渡る。
ミズナは水龍 スイカに取り憑かれていた。
水華を握りしめたミズナは怒気を顕にし、族長コウキを責め立てる。
「何故だ、私はまだ降ろされていない! 私の使い手は貴様の息子、リュウジじゃないのか!?」
族長も絶句していた。
ミズナの顔色が徐々に蒼くなっていく。
このままだとまずい。だが、打つ手はなかった。
怒りで我を忘れたスイカは自力でミズナから離れられずにいたのだ。
オレはただ見ていることしかできなかった。余りの無力さに嘔吐が出る。
大人が動けないこの状況で、唯一自我を見失わずにいたのは……アキラだった。
「てめぇ、誰だよ!? ミズナから離れろ!!」
ぎろり、とスイカはアキラを睨む。
それに怯むことなく、アキラが怒鳴った。
「ミズナの顔色がどんどん蒼くなってるんだよ! おまえのせいだろ!? 離れろよ!!」
「黙れ、糞餓鬼! 私とて、このようなチビに取り憑いている暇などないのだ!!」
「だったらさっさと離れろ! 馬鹿!!」
「ええい、生意気な餓鬼め! 貴様など、水に飲まれてしまうがいい!!」
まずい……非常にまずい。
それはわかっているというのに、大人は動揺という金縛りで動けない。
動けるのはただ一人。
「うるせぇ! ミズナから離れろったら離れろ!!」
「黙れ黙れ黙れ!!」
ミズナは水華を振り上げる。
流石、守護神と言うべきだろうか。その速さは凄まじかった。
だが、所詮水神だ。
水華の刃 がアキラを襲うが、それを見事に受け止る。
「……小癪な!」
「玄鳥、降臨……」
以前リュウジがアキラを天才肌と言っていたことがある。
オレに言わせればリュウジも充分天才なのだが、アキラは百年に一度現れるか否かの、風神であるゲンチョウの使い手だった。その速さは、齢九つといえども、村の実力トップである族長を凌ぐ。
アキラの背後に巨大なツバメが見えた。
『愚かだな、スイカよ。己の力も制御できんのか』
「ゲンチョウ、おれに力を貸してくれ。ミズナからあいつを剥ぎ取るんだ」
鋭利な視線をスイカに向ける。
『お主が言うなら快く引き受けよう』
アキラが風を纏[ う。アキラの動きは、先程より格段に速度を上げた。
「ゲンチョウか! ツバメなど、下等な生物が出る幕ではないわ!!」
ミズナの瞳が深い青色に染まる。
どこから地響きがしてきた。
道場の外へ目をやると、渦巻いた水が凄まじい勢いで迫ってくる。
その水は、アキラをゲンチョウごと呑み込んだ。
『暴走しているお主に、我が負けるとでも思うか……』
そう嘲笑すると、渦巻く水の塔を切り裂く。
「ミズナから離れろ!」
アキラが左右に飛びながらミズナへ攻撃を仕掛けた。
「水華蓮々[ !!」
完全に暴走したスイカは奥義を繰り出そうとする。
それは、巨大な蓮形の斬撃が標的の足下から湧き出るという恐ろしい技。
「アキラ……!!」
金縛りを無理矢理解[ いて、リュウジが間に割って入る。リュウジの刀である水華はミズナが持っているのだから、当然丸腰だ。
「りゅ……リュウジ、行ってはならん!!」
族長が叫ぶが、迷い無くリュウジは水華を受け止めた。
一瞬止められたオレたちの時間。
ぽたぽたと、リュウジの鮮血が道場の床に落ちてゆく。
「ぁ……あ……りゅ……リュウ兄……」
振り下ろされた水華を、リュウジはその背で受け止めた。
一方、玄鳥の太刀はあまりの速さ故アキラ自身も止められなかった。アキラは、リュウジを斬りつけてしまったのだ。
その、左目を。
「アキラ、無事か?」
今、あいつの身体は激痛で蝕まれているはずなのに、何で笑うんだよ。
どうして、オレは何もできない? こんな時に、オレは何をしていたんだ。
やるせない想いで胸が締め付けられる。
「に……兄さま……?」
くるりとミズナを振り返ると、リュウジは右手で優しく彼女の頭を撫でた。
「大丈夫か、ミズナ?」
「兄さま……ど、どうして……?」
いつの間にかスイカは離れていた。
スイカに意識を取られていた分、ミズナは何が起きたのかわからない。呆然と血まみれの兄を見つめていた。
「あ……あ……ぁ……」
アキラの全身ががたがたと震える。
『アキラ、落ち着け。おちつ 』
がしゃん、とアキラの手から玄鳥が零[ れ落ちた。その衝撃でゲンチョウの姿は掻き消される。
「ぅ……うあああ !!」
アキラの悲痛な叫び声がワツキに木霊した。
◇ ◇ ◇
この村には昔から様々な掟、決まり事があった。
オレは掟なんぞ意識もしたことなかったが、この時ばかりは意識せざるを得なかった。
「俺は、ワツキを出て行く」
あれから二日後。村の役場で幹部会が開かれている。オレも族長の右腕候補として呼ばれていた。
「リュウジ殿のせいではないだろう……!」
「そうだ、今回の事件は誰のせいでもないはずだ!」
口々に幹部たちから声が上がる。
そりゃそうだろう。リュウジはそのカリスマ性で村から絶大な人気を集めていたのだから。
「オレっちも、出て行く必要はないと思うよー」
本心だ。親友に消えて欲しいなど、誰が思うだろうか。
しかし、リュウジは静かに首を横に振った。
「これは古来から決められている掟だ。俺はもう水華を抜くことはできない。堕ちた継承者はその名を捨て、村から出て行くと定められている」
「リュウジの言う通りだ。掟に従った決断、誰にも異議は唱えさせん」
族長が厳かに言い放つ。
役場の会議室が重い空気に包まれた。
「俺は今までこのワツキに居られたことを誇りに思う。皆に感謝する」
淡々とリュウジは言葉を紡いでいく。
「今まで、ありがとう」
そこに、迷いはなかった。
◇ ◇ ◇
オレは親友の最後の姿を見ていた。
もう、会えることはないだろう。
「リュウジ、マジで行っちまうのか……」
「珍しいな、まさが俺の名をまともに呼ぶとは」
左目に黒い眼帯、真っ黒なマントをはおり、リュウジは笑っていた。
誰よりも辛いはずなのに。
「俺は出て行く。堕ちた継承者がワツキにできる唯一のことだからな」
堕ちた継承者。それは禍[ を呼ぶ。
そう、掟に記されているそうだ。
オレにとってはそんなの知ったことじゃない。だけど、リュウジのワツキを想う気持ちを捩[ じ曲げることはできなかった。
「たっちゃんがそれで納得してるならオレっちは何も言わないサァー」
どうせ見送るなら、いつも通りで。オレだったら、いつも通り接してくれた方が心が落ち着くから。
無言で頷くと、リュウジは右目を細めた。
「アキラと……ミズナを宜しく頼む。ミズナも重症だが……アキラは……」
言葉を詰まらせる。
「たっちゃん、そんな気に病むなよー。だいじょ~ぶ! あっきーは天才肌なんだろ? あれくらいでだめになるわけない~って」
そう言った根拠は全くなかった。現に、アキラはあれから心が壊れてしまい、寝たきりだ。
「アキラには……刀を捨てて欲しくない。アキラの居合いは失われたくないからな……」
オレもそう思う。一剣士として、アキラの居合いはこの世から失われたくないほど美しいものだと。
「俺は、お前とアキラ、ミズナに夢を託す」
「たっちゃんも何か見つけろよー?」
「あぁ、必ずな」
短く答えると、リュウジは身を翻した。
オレはリュウジの姿が地平線の向こうに消えるまで、その場を動かなかった。
◇ ◇ ◇
「あ、ショウゴさん、こんばんは」
おかっぱの女の子がオレを出迎えてくれた。
「アキラに会わせてくれるー?」
「お兄ちゃんはまだ目をさましていません」
「それでもいいからさ?」
オレは両手を合わして頼むと懇願する。
ユウは年の割にしっかりしたアキラの妹で、なかなかオレを通してくれない。粘り強く懇願すること数十分、最後は渋々と部屋に案内してくれた。
「てあらなまねはしないでください」
「あー、わかったわかったよー」
どこであんな言葉覚えたんだ? とても七歳が言う言葉じゃないねー。
ちらりとそんなことを考えたが、すぐにそれは掻き消えた。
ユウが部屋を出て行った後、オレは静かにアキラの顔を覗き込む。
「……うなされているか」
アキラの額はぐっしょりと汗で濡れていた。
「乗り切れよ……オマエが死んだら、リュウジもミズナもユウも悲しむんだからな……」
もちろん、オレだって。
ふと窓の外を見る。竹格子の窓の向こうには半月が浮かんでいた。
オレはその月を睨みつけて小さく呟く。
神様がいるなら、アキラを助けてくれ。
ワツキに、平和を返してくれ
アキラに視線を戻して拳を握りしめる。
あの時の自分の無力さは、情けなさはなんだ。オレがあの時動けていれば、リュウジも傷つくことなく、アキラもこんな状態にはならなかったはずなのに。
「ちくしょう……!」
拳を畳に叩きつけてみるが、それで何かが変わるわけもなかった。
腰に帯びている蒼焔へと目をやる。
今までとりあえず族長に教えられた通りにやっていた。それだけで、オレの実力は村の中でも相当だった。
でも、それだけじゃ足りない。痛いほど、思い知らされた。
オレは一年以内にソウエンを降ろす。
目の前で仲間が傷つくなど、二度と見るのはご免だ。
『偉大な武将になるだろう』
脳裏に五日前の言葉が甦る。
「なってやるサァ。名将になってやるよ……」
月光が差し込む部屋で、オレはアキラの左手を握り、そう誓ったのだった。
親友の妹であるミズナは何かに取り憑かれたようだった。
「何故、私が呼び起こされた……? 答えろ、コウキ!!」
小さい体躯から発せられる異常な威圧感。ミズナのものとは思えない声が、道場に響き渡る。
ミズナは水龍
水華を握りしめたミズナは怒気を顕にし、族長コウキを責め立てる。
「何故だ、私はまだ降ろされていない! 私の使い手は貴様の息子、リュウジじゃないのか!?」
族長も絶句していた。
ミズナの顔色が徐々に蒼くなっていく。
このままだとまずい。だが、打つ手はなかった。
怒りで我を忘れたスイカは自力でミズナから離れられずにいたのだ。
オレはただ見ていることしかできなかった。余りの無力さに嘔吐が出る。
大人が動けないこの状況で、唯一自我を見失わずにいたのは……アキラだった。
「てめぇ、誰だよ!? ミズナから離れろ!!」
ぎろり、とスイカはアキラを睨む。
それに怯むことなく、アキラが怒鳴った。
「ミズナの顔色がどんどん蒼くなってるんだよ! おまえのせいだろ!? 離れろよ!!」
「黙れ、糞餓鬼! 私とて、このようなチビに取り憑いている暇などないのだ!!」
「だったらさっさと離れろ! 馬鹿!!」
「ええい、生意気な餓鬼め! 貴様など、水に飲まれてしまうがいい!!」
まずい……非常にまずい。
それはわかっているというのに、大人は動揺という金縛りで動けない。
動けるのはただ一人。
「うるせぇ! ミズナから離れろったら離れろ!!」
「黙れ黙れ黙れ!!」
ミズナは水華を振り上げる。
流石、守護神と言うべきだろうか。その速さは凄まじかった。
だが、所詮水神だ。
水華の
「……小癪な!」
「玄鳥、降臨……」
以前リュウジがアキラを天才肌と言っていたことがある。
オレに言わせればリュウジも充分天才なのだが、アキラは百年に一度現れるか否かの、風神であるゲンチョウの使い手だった。その速さは、齢九つといえども、村の実力トップである族長を凌ぐ。
アキラの背後に巨大なツバメが見えた。
『愚かだな、スイカよ。己の力も制御できんのか』
「ゲンチョウ、おれに力を貸してくれ。ミズナからあいつを剥ぎ取るんだ」
鋭利な視線をスイカに向ける。
『お主が言うなら快く引き受けよう』
アキラが風を
「ゲンチョウか! ツバメなど、下等な生物が出る幕ではないわ!!」
ミズナの瞳が深い青色に染まる。
どこから地響きがしてきた。
道場の外へ目をやると、渦巻いた水が凄まじい勢いで迫ってくる。
その水は、アキラをゲンチョウごと呑み込んだ。
『暴走しているお主に、我が負けるとでも思うか……』
そう嘲笑すると、渦巻く水の塔を切り裂く。
「ミズナから離れろ!」
アキラが左右に飛びながらミズナへ攻撃を仕掛けた。
「
完全に暴走したスイカは奥義を繰り出そうとする。
それは、巨大な蓮形の斬撃が標的の足下から湧き出るという恐ろしい技。
「アキラ……!!」
金縛りを無理矢理
「りゅ……リュウジ、行ってはならん!!」
族長が叫ぶが、迷い無くリュウジは水華を受け止めた。
一瞬止められたオレたちの時間。
ぽたぽたと、リュウジの鮮血が道場の床に落ちてゆく。
「ぁ……あ……りゅ……リュウ兄……」
振り下ろされた水華を、リュウジはその背で受け止めた。
一方、玄鳥の太刀はあまりの速さ故アキラ自身も止められなかった。アキラは、リュウジを斬りつけてしまったのだ。
その、左目を。
「アキラ、無事か?」
今、あいつの身体は激痛で蝕まれているはずなのに、何で笑うんだよ。
どうして、オレは何もできない? こんな時に、オレは何をしていたんだ。
やるせない想いで胸が締め付けられる。
「に……兄さま……?」
くるりとミズナを振り返ると、リュウジは右手で優しく彼女の頭を撫でた。
「大丈夫か、ミズナ?」
「兄さま……ど、どうして……?」
いつの間にかスイカは離れていた。
スイカに意識を取られていた分、ミズナは何が起きたのかわからない。呆然と血まみれの兄を見つめていた。
「あ……あ……ぁ……」
アキラの全身ががたがたと震える。
『アキラ、落ち着け。おちつ
がしゃん、とアキラの手から玄鳥が
「ぅ……うあああ
アキラの悲痛な叫び声がワツキに木霊した。
◇ ◇ ◇
この村には昔から様々な掟、決まり事があった。
オレは掟なんぞ意識もしたことなかったが、この時ばかりは意識せざるを得なかった。
「俺は、ワツキを出て行く」
あれから二日後。村の役場で幹部会が開かれている。オレも族長の右腕候補として呼ばれていた。
「リュウジ殿のせいではないだろう……!」
「そうだ、今回の事件は誰のせいでもないはずだ!」
口々に幹部たちから声が上がる。
そりゃそうだろう。リュウジはそのカリスマ性で村から絶大な人気を集めていたのだから。
「オレっちも、出て行く必要はないと思うよー」
本心だ。親友に消えて欲しいなど、誰が思うだろうか。
しかし、リュウジは静かに首を横に振った。
「これは古来から決められている掟だ。俺はもう水華を抜くことはできない。堕ちた継承者はその名を捨て、村から出て行くと定められている」
「リュウジの言う通りだ。掟に従った決断、誰にも異議は唱えさせん」
族長が厳かに言い放つ。
役場の会議室が重い空気に包まれた。
「俺は今までこのワツキに居られたことを誇りに思う。皆に感謝する」
淡々とリュウジは言葉を紡いでいく。
「今まで、ありがとう」
そこに、迷いはなかった。
◇ ◇ ◇
オレは親友の最後の姿を見ていた。
もう、会えることはないだろう。
「リュウジ、マジで行っちまうのか……」
「珍しいな、まさが俺の名をまともに呼ぶとは」
左目に黒い眼帯、真っ黒なマントをはおり、リュウジは笑っていた。
誰よりも辛いはずなのに。
「俺は出て行く。堕ちた継承者がワツキにできる唯一のことだからな」
堕ちた継承者。それは
そう、掟に記されているそうだ。
オレにとってはそんなの知ったことじゃない。だけど、リュウジのワツキを想う気持ちを
「たっちゃんがそれで納得してるならオレっちは何も言わないサァー」
どうせ見送るなら、いつも通りで。オレだったら、いつも通り接してくれた方が心が落ち着くから。
無言で頷くと、リュウジは右目を細めた。
「アキラと……ミズナを宜しく頼む。ミズナも重症だが……アキラは……」
言葉を詰まらせる。
「たっちゃん、そんな気に病むなよー。だいじょ~ぶ! あっきーは天才肌なんだろ? あれくらいでだめになるわけない~って」
そう言った根拠は全くなかった。現に、アキラはあれから心が壊れてしまい、寝たきりだ。
「アキラには……刀を捨てて欲しくない。アキラの居合いは失われたくないからな……」
オレもそう思う。一剣士として、アキラの居合いはこの世から失われたくないほど美しいものだと。
「俺は、お前とアキラ、ミズナに夢を託す」
「たっちゃんも何か見つけろよー?」
「あぁ、必ずな」
短く答えると、リュウジは身を翻した。
オレはリュウジの姿が地平線の向こうに消えるまで、その場を動かなかった。
◇ ◇ ◇
「あ、ショウゴさん、こんばんは」
おかっぱの女の子がオレを出迎えてくれた。
「アキラに会わせてくれるー?」
「お兄ちゃんはまだ目をさましていません」
「それでもいいからさ?」
オレは両手を合わして頼むと懇願する。
ユウは年の割にしっかりしたアキラの妹で、なかなかオレを通してくれない。粘り強く懇願すること数十分、最後は渋々と部屋に案内してくれた。
「てあらなまねはしないでください」
「あー、わかったわかったよー」
どこであんな言葉覚えたんだ? とても七歳が言う言葉じゃないねー。
ちらりとそんなことを考えたが、すぐにそれは掻き消えた。
ユウが部屋を出て行った後、オレは静かにアキラの顔を覗き込む。
「……うなされているか」
アキラの額はぐっしょりと汗で濡れていた。
「乗り切れよ……オマエが死んだら、リュウジもミズナもユウも悲しむんだからな……」
もちろん、オレだって。
ふと窓の外を見る。竹格子の窓の向こうには半月が浮かんでいた。
オレはその月を睨みつけて小さく呟く。
神様がいるなら、アキラを助けてくれ。
アキラに視線を戻して拳を握りしめる。
あの時の自分の無力さは、情けなさはなんだ。オレがあの時動けていれば、リュウジも傷つくことなく、アキラもこんな状態にはならなかったはずなのに。
「ちくしょう……!」
拳を畳に叩きつけてみるが、それで何かが変わるわけもなかった。
腰に帯びている蒼焔へと目をやる。
今までとりあえず族長に教えられた通りにやっていた。それだけで、オレの実力は村の中でも相当だった。
でも、それだけじゃ足りない。痛いほど、思い知らされた。
オレは一年以内にソウエンを降ろす。
目の前で仲間が傷つくなど、二度と見るのはご免だ。
『偉大な武将になるだろう』
脳裏に五日前の言葉が甦る。
「なってやるサァ。名将になってやるよ……」
月光が差し込む部屋で、オレはアキラの左手を握り、そう誓ったのだった。
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