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DISERD school story*晴れのち桜吹雪

「おい、アズウェル・クランスティ!」
 眼帯をした男が、金髪の青年を呼び止める。
「げ、海賊先生……」
「俺は賊ではないと何度も言っている」
「な、何の用ですか」
 じりじりと後ずさりしながら、青年アズウェル・クランスティは生徒指導主事のルーティングを睨み上げた。
「貴様、いつになったらそのふざけた金髪を直してくるんだ」
「だからこれは地毛だって言ってんの!」
「金髪は校則違反だぞ!!
 拳骨が降ってくると思った時、何とも間の抜けた声がした。
「たっちゃぁ~ん、アズっちぃ~」
「アズウェルはん、またリューセンセともめごとでっか?」
 銀髪にルーズな格好の教師一人と、鉢巻きを巻いた放送委員長が手を振る。
「ほら見ろ! 銀髪先生だっていんのに、何で金髪がダメなんだよ!?
「……ショウゴは地毛だ」
「おれだって地毛だ!!
「まぁまぁ、そうカッカせんでもええやないでっか」
 爽やかな笑顔で二人の間に入った放送委員長アキラは、くるりと後ろを振り返り、銀髪教師ショウゴに同意を求めた。
「ショーゴセンセもそう思わへん?」
「うんうんー。たっちゃん、アズっちに対して厳しすぎるよー。アズっちは留学生なんだし~、金髪くらい大目に見てあげなよ~」
「俺は生徒指導主事だ。当然の仕事をこなしているまでだ」
 心外なと言わんばかりに腕を組み、ルーティングはアキラの格好を見やる。
「おい、アキラ。ワイシャツのボタンを外すなら、ネクタイは締めるな。みっともないぞ」
「あぁ~、すんまへん。どーも、このネクタイっちゅーもんは堅苦しくて。せやけど、してへんと風紀委員長に竹刀で殴られるさかい。それにほら、ショーゴセンセもそういうカッコしとりまっせ?」
「だってこの方が楽ちんじゃ~ん」
 飄々[ひょうひょう][うそぶ]くショウゴに、ルーティングは深く嘆息した。
「お前がそんなんだから、こいつらが校則を守らないんだ……」
 頭が痛そうにこめかみを押さえ、「まったくどいつもこいつも……」と唸るルーティングを見て、アズウェルはこそこそと離れていく。
 逃げるなら今のうち、今のうち……
「アズウェルー!」
「ひぃ!?
 こっそり逃亡を図っていたアズウェルは、突如名前を大声で呼ばれ、文字通り飛び上がった。
 声の主を探すと、再び高い声がした。
「アズウェルー! こっちだ、こっち。下だ」
 声に従い、二階の渡り廊下から下を覗くと、長い黒髪を一つに結った女生徒が手を振っている。
「あ、マツザワ! それにユウも!」
「アズウェルさ~ん、アキラさ~ん」
 にっこりと微笑みを浮かべ、マツザワの隣にいるおかっぱの少女も手を振る。
「お、マツザワはんにユウやないでっか」
「何してんだー、マツザワー?」
 上から覗き込む二人に、マツザワは空を指差して答える。
「桜が降っているんだ。アズウェルも見に来ないか?」
「綺麗ですよ」
 言われてから気付いた。
 二人の言う通り、確かに淡いピンクの花弁が舞っている。
「今日の天気は桜吹雪だったねー」
 のんびりと言うショウゴに、アズウェルは瞳を輝かせる。
「え、春に降るって言う、あのピンクのやつ?」
「うんうん、晴れのち桜吹雪って朝のニュースでやってたよー」
「アキラ、見に行こうぜっ」
「はいな~」
 嬉々として駆けていく二人を見つめて、ショウゴは相変わらず溜息をついているルーティングに片目を瞑る。
「みずなちゃんもいるんだし、オレっちたちも見に行こうよー」
「俺は暇じゃない」
「いーじゃん、せっかくのお昼休みなんだしサァ」
 渋るルーティングの背中を押し、ショウゴもアズウェルたちの後を追った。


「うはぁ~、すっげぇ、すっげぇ!」
「春がやってきたんやなぁ」
 外に出ると、ひらひらと舞い踊る花弁たちが二人を歓迎する。
「これが学園名物〝晴天の桜吹雪〟か~。ディオウたちにも見せてやりたかったのになぁ」
 あの海賊先生が動物進入禁止とか言うから連れてこれないのだ。親だと言っているのに。
 半眼にして内心で毒突く。
 最近この学園に留学生として編入してきたアズウェルは、何故か初日から生徒指導主事に目をつけられ、毎日のようにいがみ合っている。
 ショウゴの「気に入られてるんだよー」という言葉を、アズウェルは全く信じられずにいた。
 絶対嫌っているに決まってる。あの海賊は。
 がくりと両肩を落とし溜息をついたアズウェルの頭に、アキラが手を乗せる。
「ほれ、アズウェルはん。花びらがくっついとりまっせ~」
 人差し指と中指でひとひらの花弁を挟み、アキラはにやりと笑う。
「花びらが頭についた人は、この一年、ええことがあるって言われとるんやで」
「いいこと……?」
「せやせや。今年アズウェルはんはラッキーイヤーっつーわけや」
 ええな~、と顔を綻ばせるアキラに、アズウェルは眉間にシワを寄せて考え込む。
「ホントにいいことあんのかなぁ……」
 ぽつりと呟いた時、後方から不機嫌な怒号が響いた。
「小僧、お前は後で職員室に来い!」
「うぇ!?
「来なければ、明日の3時限目、ただでは帰さないぞ」
「マジかよー」
 しょんぼりと項垂れたアズウェルは思うのだった。
 絶対ラッキーイヤーなわけがない、と。

 空は快晴。
 雲一つ無い青空からは、止め処なく春の便りが降り注いでいた。


Fin.

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コメント

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>>匿名さま
こんばんは、お久しぶりです♪
いろんな意味で(笑) ←に含まれる意味が気になりました(笑)
ただの忙殺スケジュールならいいのですが、基本コロコロ変わるので、萎えてしまいます(´・ω・`)
話の中には気まぐれで書いたものもありますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

更新ペースが徐々に落ちてますが、マイペースに頑張りまっす♪
コメント、ありがとう☆

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