第14記 破る者
アズウェルはルーティングの言葉を思い出す。
この戦は、お前に全てが懸かっている
言われなくとも、絶対守り抜くと誓った。だが、急に「全て」と言われても。
戸惑が予知の邪魔をする。
「遅い!」
ルーティングの印 が完成した。
風が雄叫びを上げて、アズウェルを吹き飛ばす。
がん、という音と共に、アズウェルは道場の壁に叩きつけられた。
「 ~っ! ……いってー」
「お前、真面目にやれ!!」
鋭利なルーティングの怒号が道場に反響する。
何度目の怒号なのか、数えるだけでうんざりだ。
「やってるよ……」
不満を顕[ にして、アズウェルはルーティングを睨み上げた。
「結果を出せなければ意味がない。時間がないんだ。感覚を研ぎ澄ませ」
「意図的に能力を使うなんて、天気予報くらいしかしたことねぇんだよ……」
「……」
緊張感のないアズウェルを、ルーティングは半ば呆れて見つめていた。
印、即ち魔術。それを破る術をたった一日で叩き込めというのだ。
相変わらず無理難題を押しつける主に、頭を抱える。
「予知能力を何でもいい、何か武器として考えてみろ」
「武器?」
「漠然としているものより、形をイメージできるものの方が扱い易い」
「なるほど、扱い易いモノのイメージかぁ」
数秒の後、アズウェルは大真面目に答える。
「じゃ、ディオウで」
「……は?」
「だから、扱い易いモノのイメージだろ?」
「……」
真面目にやれぇえええっ!!
空が朝焼けに染まる頃、ルーティングの怒号が高らかに響いた。
◇ ◇ ◇
「おい、起きろ、この馬鹿商人!!」
リアイリド家は早朝からディオウの罵声と怒声で賑やかだ。
「んぁ~……ディオウはん、寝込みを襲うなんてあんまりやないでっか~」
ディオウはアキラの胸元を前足で押さえつけていた。
今にも尖った爪が胸板に食い込みそうで恐ろしい。
「……重いっす」
「黙れ。おまえ、アズウェルをどこにやった!?」
「アズウェルはん? おらへんの?」
「あいつがこんなに朝早く起きれるわけがない。一体どこへ隠した!?」
相当お冠のようだ。下手に答えると殺されそうな勢いだった。
「ちょ、ちょっとディオウ! いくら起きたらアズウェルの姿がなかったからって何やってんの!?」
ラキィがぱたぱたと耳で飛びながら、アキラの寝室に入ってくる。
「ラキィはん、ユウには聞いたか?」
「ええ。聞いたわ。知らないって」
「あ~、そらおかしいで。朝おらんようになったならユウが見とるはずや。ユウは朝早いからな。ユウが見とらんなら、夜の間やろ」
「夜の間にどこへ隠した!?」
ディオウの押さえつける力が強くなる。
肺が圧迫されて呼吸が不規則になり、アキラの額に冷や汗が生じた。
「あぁ……あかんて、ディオウはん……ちょ、ちょっと」
「ディオウさん、ディオウさ……アキラさん!? 何してらっしゃるんですか、ディオウさん!!」
ひょっこりと襖の隙間から顔を出したユウは、アキラが半殺しにされている様子を見て顔を真っ青に染め上げた。
「アキラ、すまぬが邪魔するぞ」
事態が悪転していく中、落ち着いた声音がディオウの凶行に歯止めをかけた。
「……族長」
ディオウの力が徐々に弱まり、アキラはほっとして咳き込んだ。
流石にもう殺される心配はないだろう。
「朝からアズウェルの姿がない。どういうことだ?」
「これでアズウェルが勝手に散歩にでも行っていたらいい迷惑だわ」
ラキィの文句を聞いて、族長は微かに目を瞠[ った。
流石、というべきか、彼女の勘は鋭かった。半分、当たってはいる。
だが、朝になってもアズウェルが戻って来られなかったのは、本人のせいではなかった。
「アズウェルには少々修行をお願いした。明日の十時までには戻るだろう」
族長の脳裏に、昨夜の会話が鮮明に浮かんだ。
震える口が言葉を紡ぐ。
「……リュウジ……戻ってきてくれたのか」
リュウジと呼ばれた男は静かに視線を落とした。
「俺はもう……その名は捨てた。村を出たあの日から。俺の名はルアルティド・レジアだ」
ルアルティド・レジア。アズウェルが知っている名前。しかしそれは彼の本名ではなかった。
「たとえ……たとえ村を出て行っても、我が息子であることになんら変わりはない。お前の名は、リュウジ・コネクティードだ」
族長に昼間の気迫はなかった。震える声が孕[ むのは哀しみを織り混ぜた後悔だ。
「頼む……村へ、ワツキへ戻ってきてくれ」
懇願するように絞り出された言の葉を、ルーティングは迷うことなく断ち切った。
「俺は、戻らない。アキラにも、ミズ……マツザワにも会わない。あくまで俺は主の命でここに来た。村を出て、クロウ族になった俺が、貴様に従う筋合いはない」
迷いは、ないのだ。自分に迷いがあれば、この八年のアキラ、マツザワの想いが、自分の八年前の行動が、無に還る。
「俺は主の命でここに結界を張りに来ただけだ。この村は崖に囲まれている。崖の上から攻撃されれば打つ手がない。貴様に会いに来たのは、この印をマツザワ、アキラ、ショウゴに渡してもらう必要があるからだ」
文字通り、呆然となっている族長に、ルーティングは印を刻み込んだガラスを差し出す。
「……受け取れば戻ってくれるか?」
「それとこれは話が別だ。俺は命令でここに来ているだけだ。言う通りにしてくれ……いや、しなくてもいい。村が潰れても構わないならな」
族長は押し黙った。
知っていた。クロウ族になり、刀も名も捨てたことは。
だが、それを本人の口から滔々と述べられたとき、後悔の念に駆られた。
掟を覆してでも、追い出すべきではなかったのだ。
ルーティングは真っ直ぐに父を見つめている。
息子の視線から、逃げてはいけない。彼の決意が変わることは、もうないだろう。今はワツキを、民を守ることが先決。族長という立場である以上、私情に捕らわれてはならない。
「……受け取ろう」
堂々と印を受け取る。族長は本来の気迫を取り戻した。
「全部で四枚ある。この結界は族長、マツザワ、アキラ、ショウゴ、そしてこの俺で作る」
「私は構わない。ショウゴもよいだろう。しかし……」
ルーティングは族長の言わんとしてるところを察した。
問題はアキラとマツザワである。
「よりこの村を守る意志が強い者を選んだ。俺が張る結界の源はその想いだ。あの二人は誰よりも適任だろう」
「そうだ。だが、マツザワはともかく……アキラは今刀を抜くことすらできない」
八年前のあの悲劇は、アキラから刀技を奪った。無論、失ったものはそれだけれはない。悲劇は今も尚、それぞれの心に深い爪痕を残している。
「それは俺の知ったことじゃない。アキラ以外じゃ術は成り立たない。術者である俺、そして……」
固まっているアズウェルへ視線を移す。
「結界の核になるアズウェルの信頼がなければ」
「お……おれが、核……?」
自分の名を呼ばれ、漸[ く呪縛が解けたのか、アズウェルの言葉が音になった。
「別に難しい事じゃない。お前はただ、俺たち全員の力を感じていればいい。後は無意識にできるはずだ。それより、お前にはもう一つやることがある」
「やること?」
ルーティングは族長へ向き直ると静かに告げた。
「今から丸一日、アズウェルを預けていただきたい。俺はこいつに印の破り方を叩き込む。闇魔術[ に対抗するには、印破りができなければならない。俺とショウゴと族長……貴方だけでは力不足だ」
「……いいだろう。ディオウ殿の方には私から伝えておこう」
察しがいい。何より問題はそこだ。朝アズウェルの姿がなければ必ず騒ぎになる。
族長の言葉にルーティングは無言で頷いた。
「お、おれ、これからどうすんの?」
「時間は惜しい。今からこの道場で印破りを覚えろ。この戦は、お前に全てが懸かっている」
ルーティングの心配通り、族長の察した通り、リアイリド家では騒ぎになっていた。
危うくアキラが絞め殺されるところだったのだ。
「私が頼んだのだ。心配することはない」
「アズウェルはどこだ?」
ディオウはアキラから降り、族長を見据える。
「それは答えることはできない。誰一人として干渉することはならん」
「無理矢理アズウェルにやらせていないだろうな?」
「本人の意志だ。強くなりたい、守りたい、というな」
その言葉にディオウも口を閉ざした。
アズウェルの意志なら止める必要はない。むしろ、止めればアズウェルの気持ちを踏みにじることになる。
「……わかった。アキラ、疑って悪かった」
「ええよ、ええよ。いやぁ、しかし。ディオウはんお強いでんなぁ。ホンマ殺されるかと思うたわ」
けたけたと笑っているアキラに、族長が冷然と命[ を突き刺す。
「アキラ、後で我が家へ。玄鳥を持ってくるのだ」
アキラはその言葉に顔を強張らせた。血の気が引いていく。
ユウが心配そうにアキラを見つめている。
あのアキラが、全身をがたがたと震わせていた。
「族長さま、それはあまりに……!」
「待っておるぞ」
ユウの批難を遮り、族長はリアイリド家を後にした。
◇ ◇ ◇
「まだ遅い!!」
「くそっ!」
またアズウェルはルーティングの風に殴り飛ばされた。
「予知は大分追いついているはずだ。体が遅れている。数歩先を見据えて動け!」
再びルーティングが宙に印を描く。
印を破るにはいくつかの柱を崩せばいい。より、魔力が注入されている柱を切り崩せば。
「上と下っ……!」
アズウェルは小刀で印の上下を素早く斬り込む。
窓ガラスが割れるような音を立てて、印が破れる。ルーティングの詠唱が中断した。
「おっしゃ! 破れた!」
「ようやく一つ目か。これはまだまだ低級魔法だ。徐々に詠唱速度と魔法ランクを上げていくぞ」
「おう!!」
アズウェルの心にはルーティングの台詞が木霊している。
失いたくなければ、己の力で守り通してみろ
言われなくとも、絶対守り抜くと誓った。だが、急に「全て」と言われても。
戸惑が予知の邪魔をする。
「遅い!」
ルーティングの
風が雄叫びを上げて、アズウェルを吹き飛ばす。
がん、という音と共に、アズウェルは道場の壁に叩きつけられた。
「
「お前、真面目にやれ!!」
鋭利なルーティングの怒号が道場に反響する。
何度目の怒号なのか、数えるだけでうんざりだ。
「やってるよ……」
不満を
「結果を出せなければ意味がない。時間がないんだ。感覚を研ぎ澄ませ」
「意図的に能力を使うなんて、天気予報くらいしかしたことねぇんだよ……」
「……」
緊張感のないアズウェルを、ルーティングは半ば呆れて見つめていた。
印、即ち魔術。それを破る術をたった一日で叩き込めというのだ。
相変わらず無理難題を押しつける主に、頭を抱える。
「予知能力を何でもいい、何か武器として考えてみろ」
「武器?」
「漠然としているものより、形をイメージできるものの方が扱い易い」
「なるほど、扱い易いモノのイメージかぁ」
数秒の後、アズウェルは大真面目に答える。
「じゃ、ディオウで」
「……は?」
「だから、扱い易いモノのイメージだろ?」
「……」
空が朝焼けに染まる頃、ルーティングの怒号が高らかに響いた。
◇ ◇ ◇
「おい、起きろ、この馬鹿商人!!」
リアイリド家は早朝からディオウの罵声と怒声で賑やかだ。
「んぁ~……ディオウはん、寝込みを襲うなんてあんまりやないでっか~」
ディオウはアキラの胸元を前足で押さえつけていた。
今にも尖った爪が胸板に食い込みそうで恐ろしい。
「……重いっす」
「黙れ。おまえ、アズウェルをどこにやった!?」
「アズウェルはん? おらへんの?」
「あいつがこんなに朝早く起きれるわけがない。一体どこへ隠した!?」
相当お冠のようだ。下手に答えると殺されそうな勢いだった。
「ちょ、ちょっとディオウ! いくら起きたらアズウェルの姿がなかったからって何やってんの!?」
ラキィがぱたぱたと耳で飛びながら、アキラの寝室に入ってくる。
「ラキィはん、ユウには聞いたか?」
「ええ。聞いたわ。知らないって」
「あ~、そらおかしいで。朝おらんようになったならユウが見とるはずや。ユウは朝早いからな。ユウが見とらんなら、夜の間やろ」
「夜の間にどこへ隠した!?」
ディオウの押さえつける力が強くなる。
肺が圧迫されて呼吸が不規則になり、アキラの額に冷や汗が生じた。
「あぁ……あかんて、ディオウはん……ちょ、ちょっと」
「ディオウさん、ディオウさ……アキラさん!? 何してらっしゃるんですか、ディオウさん!!」
ひょっこりと襖の隙間から顔を出したユウは、アキラが半殺しにされている様子を見て顔を真っ青に染め上げた。
「アキラ、すまぬが邪魔するぞ」
事態が悪転していく中、落ち着いた声音がディオウの凶行に歯止めをかけた。
「……族長」
ディオウの力が徐々に弱まり、アキラはほっとして咳き込んだ。
流石にもう殺される心配はないだろう。
「朝からアズウェルの姿がない。どういうことだ?」
「これでアズウェルが勝手に散歩にでも行っていたらいい迷惑だわ」
ラキィの文句を聞いて、族長は微かに目を
流石、というべきか、彼女の勘は鋭かった。半分、当たってはいる。
だが、朝になってもアズウェルが戻って来られなかったのは、本人のせいではなかった。
「アズウェルには少々修行をお願いした。明日の十時までには戻るだろう」
族長の脳裏に、昨夜の会話が鮮明に浮かんだ。
震える口が言葉を紡ぐ。
「……リュウジ……戻ってきてくれたのか」
リュウジと呼ばれた男は静かに視線を落とした。
「俺はもう……その名は捨てた。村を出たあの日から。俺の名はルアルティド・レジアだ」
ルアルティド・レジア。アズウェルが知っている名前。しかしそれは彼の本名ではなかった。
「たとえ……たとえ村を出て行っても、我が息子であることになんら変わりはない。お前の名は、リュウジ・コネクティードだ」
族長に昼間の気迫はなかった。震える声が
「頼む……村へ、ワツキへ戻ってきてくれ」
懇願するように絞り出された言の葉を、ルーティングは迷うことなく断ち切った。
「俺は、戻らない。アキラにも、ミズ……マツザワにも会わない。あくまで俺は主の命でここに来た。村を出て、クロウ族になった俺が、貴様に従う筋合いはない」
迷いは、ないのだ。自分に迷いがあれば、この八年のアキラ、マツザワの想いが、自分の八年前の行動が、無に還る。
「俺は主の命でここに結界を張りに来ただけだ。この村は崖に囲まれている。崖の上から攻撃されれば打つ手がない。貴様に会いに来たのは、この印をマツザワ、アキラ、ショウゴに渡してもらう必要があるからだ」
文字通り、呆然となっている族長に、ルーティングは印を刻み込んだガラスを差し出す。
「……受け取れば戻ってくれるか?」
「それとこれは話が別だ。俺は命令でここに来ているだけだ。言う通りにしてくれ……いや、しなくてもいい。村が潰れても構わないならな」
族長は押し黙った。
知っていた。クロウ族になり、刀も名も捨てたことは。
だが、それを本人の口から滔々と述べられたとき、後悔の念に駆られた。
掟を覆してでも、追い出すべきではなかったのだ。
ルーティングは真っ直ぐに父を見つめている。
息子の視線から、逃げてはいけない。彼の決意が変わることは、もうないだろう。今はワツキを、民を守ることが先決。族長という立場である以上、私情に捕らわれてはならない。
「……受け取ろう」
堂々と印を受け取る。族長は本来の気迫を取り戻した。
「全部で四枚ある。この結界は族長、マツザワ、アキラ、ショウゴ、そしてこの俺で作る」
「私は構わない。ショウゴもよいだろう。しかし……」
ルーティングは族長の言わんとしてるところを察した。
問題はアキラとマツザワである。
「よりこの村を守る意志が強い者を選んだ。俺が張る結界の源はその想いだ。あの二人は誰よりも適任だろう」
「そうだ。だが、マツザワはともかく……アキラは今刀を抜くことすらできない」
八年前のあの悲劇は、アキラから刀技を奪った。無論、失ったものはそれだけれはない。悲劇は今も尚、それぞれの心に深い爪痕を残している。
「それは俺の知ったことじゃない。アキラ以外じゃ術は成り立たない。術者である俺、そして……」
固まっているアズウェルへ視線を移す。
「結界の核になるアズウェルの信頼がなければ」
「お……おれが、核……?」
自分の名を呼ばれ、
「別に難しい事じゃない。お前はただ、俺たち全員の力を感じていればいい。後は無意識にできるはずだ。それより、お前にはもう一つやることがある」
「やること?」
ルーティングは族長へ向き直ると静かに告げた。
「今から丸一日、アズウェルを預けていただきたい。俺はこいつに印の破り方を叩き込む。
「……いいだろう。ディオウ殿の方には私から伝えておこう」
察しがいい。何より問題はそこだ。朝アズウェルの姿がなければ必ず騒ぎになる。
族長の言葉にルーティングは無言で頷いた。
「お、おれ、これからどうすんの?」
「時間は惜しい。今からこの道場で印破りを覚えろ。この戦は、お前に全てが懸かっている」
ルーティングの心配通り、族長の察した通り、リアイリド家では騒ぎになっていた。
危うくアキラが絞め殺されるところだったのだ。
「私が頼んだのだ。心配することはない」
「アズウェルはどこだ?」
ディオウはアキラから降り、族長を見据える。
「それは答えることはできない。誰一人として干渉することはならん」
「無理矢理アズウェルにやらせていないだろうな?」
「本人の意志だ。強くなりたい、守りたい、というな」
その言葉にディオウも口を閉ざした。
アズウェルの意志なら止める必要はない。むしろ、止めればアズウェルの気持ちを踏みにじることになる。
「……わかった。アキラ、疑って悪かった」
「ええよ、ええよ。いやぁ、しかし。ディオウはんお強いでんなぁ。ホンマ殺されるかと思うたわ」
けたけたと笑っているアキラに、族長が冷然と
「アキラ、後で我が家へ。玄鳥を持ってくるのだ」
アキラはその言葉に顔を強張らせた。血の気が引いていく。
ユウが心配そうにアキラを見つめている。
あのアキラが、全身をがたがたと震わせていた。
「族長さま、それはあまりに……!」
「待っておるぞ」
ユウの批難を遮り、族長はリアイリド家を後にした。
◇ ◇ ◇
「まだ遅い!!」
「くそっ!」
またアズウェルはルーティングの風に殴り飛ばされた。
「予知は大分追いついているはずだ。体が遅れている。数歩先を見据えて動け!」
再びルーティングが宙に印を描く。
印を破るにはいくつかの柱を崩せばいい。より、魔力が注入されている柱を切り崩せば。
「上と下っ……!」
アズウェルは小刀で印の上下を素早く斬り込む。
窓ガラスが割れるような音を立てて、印が破れる。ルーティングの詠唱が中断した。
「おっしゃ! 破れた!」
「ようやく一つ目か。これはまだまだ低級魔法だ。徐々に詠唱速度と魔法ランクを上げていくぞ」
「おう!!」
アズウェルの心にはルーティングの台詞が木霊している。
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