[更新]陽炎完結
先程、陽炎最終話をアップしましたー。
実は陽炎、ほっとんど直してないです。
ノリノリで書いてる時だと、結構あとから見てもそれなりに書けているのですよね。
特にこの話は、今日アップしたepilogueを書きたくて作られた話なので、
進めば進むほど直すことがないというか……。
学生時代のほぼまんまなので、つまるところ、いかに実力が上がってないかがわかりますorz
実は陽炎、ほっとんど直してないです。
ノリノリで書いてる時だと、結構あとから見てもそれなりに書けているのですよね。
特にこの話は、今日アップしたepilogueを書きたくて作られた話なので、
進めば進むほど直すことがないというか……。
学生時代のほぼまんまなので、つまるところ、いかに実力が上がってないかがわかりますorz
そして、陽炎を最後まで読んでくださった方は、
本編で何故今まで△△△の〇の描写がなかったのか、おわかりいただけたかと思います(笑)
というわけで(どういうわけで?)、陽炎が終わったので、
ようやく△△△のカラーイラストが描けそうです。
この前のラフを塗り始めてはいるのですが、いつ完成するか見通しが立ちません……
その内、きっとその内……アップされるはず……
次回は、雪うさぎかCrystalになるかと思います。
でもCrystalは直す部分が多いから面倒……でも雪うさぎはその続編だしなぁ……。
多分、途中で心が折れるので、学園パロディでもアップするかもしれません。
学園パロディは完全ギャグです。とことんギャグです。シリアス要素は皆無です。
主要キャラはもちろん、過去キャラ&敵キャラ、いろんなキャラが出てきますので、
近いうちに学園パロディ配役設定をアップします(笑)
作られたのが第一部終了後ですので、陽炎&雪うさぎのキャラを含めたものですが、
雪うさぎ初登場キャラは伏せて掲載する予定です。
よし、では続きを塗ってきますっ!(執筆しろよ
本編で何故今まで△△△の〇の描写がなかったのか、おわかりいただけたかと思います(笑)
というわけで(どういうわけで?)、陽炎が終わったので、
ようやく△△△のカラーイラストが描けそうです。
この前のラフを塗り始めてはいるのですが、いつ完成するか見通しが立ちません……
その内、きっとその内……アップされるはず……
次回は、雪うさぎかCrystalになるかと思います。
でもCrystalは直す部分が多いから面倒……でも雪うさぎはその続編だしなぁ……。
多分、途中で心が折れるので、学園パロディでもアップするかもしれません。
学園パロディは完全ギャグです。とことんギャグです。シリアス要素は皆無です。
主要キャラはもちろん、過去キャラ&敵キャラ、いろんなキャラが出てきますので、
近いうちに学園パロディ配役設定をアップします(笑)
作られたのが第一部終了後ですので、陽炎&雪うさぎのキャラを含めたものですが、
雪うさぎ初登場キャラは伏せて掲載する予定です。
よし、では続きを塗ってきますっ!(執筆しろよ
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2010/09/23 (Thu) 23:10 |
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DISERD extra chapter*陽炎 -epilogue-
水がせせらぎ、七色のきらめきを放つ。小石と小石の合間に煌めくそれは宝石のようだった。
水は、どこから流れてくるのだろうか。
どこまでも澄み切った道は、始まりも終わりも見えない。ただ私の前を、静かに流れている。
ふと、懐かしい気配に顧みると、そこには会えるはずもない人がいた。
「か、母さま……?」
夢か、幻か。
どちらでも構わない。
会えたことがただ嬉しくて、無意識に駆け出す。
「母さま!」
遠い昔に失ってしまった温もり。
長い黒髪をなびかせる母さまは、そっと両手を差し出す。
その手に乗っている一振りは。
「これ……は……」
蓮を象った鍔 に漆黒の鞘。
ずっとずっと昔に、母さまが使っていた刀。
顔を上げ、視線を刀から母さまに移す。
微笑みを顔に浮かべ、母さまはゆっくりと頷いた。
いってらっしゃい、ミズナ
◇ ◇ ◇
誰だろう。
誰かが呼んでいる。
「……ん、……ちゃん、まちちゃん!」
「ヤ、ヨイさん……? そ、れ……に……」
「気がついたッスか、お松さん」
「カツナリさん!」
かばりと起こした身体に、痛みが走る。
僅かに顔を歪めると、ヤヨイさんが首を傾けて覗き込んできた。
「無理しちゃダメなの。まちちゃんあのままだったら、真っ黒になってたの」
どうやらここは山頂の平地のようだ。
漆黒の灰と化した小屋を、目を細めて見やる。
「ヤヨイさんが、あの小屋から……」
語尾が掠れた問いに答えたのは、カツナリさんだった。
「違うッスよ。俺らが来た時には、お松さん小屋から出てたッスから。だいたい先輩は俺に助けられて……あだっ!」
「ヤヨイたちと似たような格好してて、髪も真っ黒な人が、まちちゃん助けてくれたの」
ヤヨイさんはカツナリさんの頭を華麗に蹴り飛ばし、例の如く座布団にする。
「俺が焔舞で雪を溶かしたから、先輩、助かったんスよ」
低く唸るカツナリさんを黙殺し、ヤヨイさんは身振り手振りを交えて、私を助けた人物について語っていた。
「見たこと無い人だったの。格好だけはほんとにヤヨイたちに似てたんだけど……。あ、目だけ緑だったの。深い緑だったの」
「俺ら、隠密じゃねぇッスよ。先輩が知らねぇヤツはいねぇッスから」
抵抗を諦めたのか、カツナリさんもヤヨイさんの話に付け加える。
「その方はどこに……」
「もう行っちゃったの。何もしゃべらなかったの」
「俺らの仲間ってことはわかったんスけど、誰だかはさっぱり」
「そう、ですか……」
肩をすくめる二人の様子を見ると、本当に知らない人のようだ。
一体、誰が助けてくれたのだろうか。
烏が出て行った後、業火の中で力尽きて……
意識が途切れる寸前のことを思い出し、慌てて二人の顔を見る。
「そ、それよりも。お二人ともどうしてここに? カツナリさんは今までどこに……」
ごく自然に出た問いを投げかけたのだが、カツナリさんは決まりの悪そうに眉間にしわを寄せた。
「俺はヒオリを介して先遣隊との連絡を取ってたわけッス。出発前夜にもヒオリから呼び出されて、例の遺跡に行ったんスけど……」
「はげぴょん閉じこめられたの」
さも馬鹿にしたように、ヤヨイさんがカツナリさんの頭をぺしぺしと叩く。
「ちょっと油断したんスよ。まさかヒオリが黒幕だとは思わなかったッスから」
「それで、どうやってここまで来たんですか?」
「遺跡に生き埋めにされたんスけど、遺跡の石全部斬って、出たときには夜だったわけッス。それから先輩たちの後を急いで追ったんスが、峡谷の道が崩れてるわ、雪で行き止まりになってるわで」
はぁ、と一つため息をついて言葉を繋げる。
「んで、その邪魔な雪を溶かしたら先輩が出てき……ぐぇっ!」
しかし、最後まで言い切る前に、大地にひれ伏した。
ヤヨイさんに頭を足蹴にされて。
「道は上しかなかったから、断崖を登ってきたの。ほんと、はげぴょん今回役立たずだったのっ」
「……そ、そうだったんですか。商隊の方たちは……?」
「先輩と同じ雪に埋もれてた人は無事ッスよ」
「よかった……」
それでも、初回の雪崩に巻き込まれた人たちは。
自分の情けなさに拳を握り締める。
一番役立たずだったのは、私だ。
私一人では、何もできなかった。
そっと握りしめていた手を開くと、ひとひらの雪が舞い降りた。
「これは……」
「また、雪なの」
「もう春なのによく降るッスねぇ」
降り注ぐこれは、任務中何度も見た、粉雪。
手の中に降り立つと、溶け込むようにしてその姿を消す。
大地に降りた者も、小屋に降りる者も。
そうして舞い降りては、溶け込み……
「雪は……」
掠れた声で呟いた言葉は、自分が思うより大きかったようだ。
相変わらずヤヨイさんの座布団になっているカツナリさんが、目で尋ねてくる。
「何スか? 雪が?」
「雨が、神さまの涙なら……雪は何だろうな、と」
風の中を踊りながら落ちてくる粉雪を見上げ、幼い頃の疑問を呟く。
「雪は、浄化らしいッスよ」
「じょ、浄化……?」
まさかカツナリさんから答えが返ってくるとは思っていなかった。
ヤヨイさんを背に乗せたまま、頬杖をつく。
そして、どこか遠くを見つめるようにカツナリさんは笑った。
「お袋からそう聞いたって、リュウジが言ってたッス」
「兄さまが……」
「一年の終わりに、その年の禍[ を清めるために降る。って言ってたッスよ」
一年の終わり。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来る。
また、新たな春を迎えるために、年の終わりには雪が降る。
「彼女も浄化されるのだろうか……」
「ひおりちゃんなら、大丈夫なの」
「ヤヨイさん……」
私よりも遙かに長い時を、ヤヨイさんたちは過ごしてきたのだ。
あの、彼女と。
「きっと、大丈夫……なの」
微笑んだヤヨイさんの目尻がきらりと光る。
無言で空を見上げるカツナリさんも、想いは同じなのだろうか。
追悼の雪が、灰となった小屋の上にひらひらと舞い降りていた。
◇ ◇ ◇
あれは三年前の春のこと。
境内の一角にある池の畔で、私は舞いゆく花弁を眺めながら、回想にふけっていた。
多くの課題を残したあの任務は、失敗ではなかった。
本当に古文書を運んでいたのは、本隊でもなければ、もちろん先遣隊でもなく。
たった一人の商人がそれを裏でこなしたのだと。
村に戻った私は父上から聞かされたのだ。
ただ一つだけ、謎のままだったのは。
「結局、わからず終いだったな……」
「なぁに、しけた顔しとるんや?」
突如降ってきた苦手な声に、怒気を含んだ言葉を返す。
「貴様には関係ないことだ」
「えらぃ悩んでるみたいやなぁ? 何や何や、好きな人でもできたんか?」
「阿呆! ふざけたことを抜かすな!」
社の前で刀は抜かない。
一年前に茶化されたことを思い出し、刀ではなく、手刀を叩き込む。
しかし、読まれていたのか、右手はあっさりその男に掴まれた。
「あかんて、おなごがそないに技ぁ出したら。あんさんカルシウムが足りないんとちゃう?」
顔を覗き込むようにして、男は私に目線の高さを合わせてくる。
「たっ……戯け! 離れろ!」
「おー、おー。おっかないわぁ~」
平手をひらりとかわし、ちょうど一年前に帰ってきた幼馴染みは、背後に佇む神木を顧みた。
今年は、もう満開の花が咲いている。
彼の後ろ姿を見つめながら、私は何度も深呼吸を繰り返した。
そんなわけがない。
あの任務で、アキラは古文書を極秘で届けていたのだから。
私たちとは違う道を通って。
全身が早鐘を打つ。
うるさいほどの鼓動が耳に響いた。
でも、あれは……
「どないしたん? 顔真っ赤やでぇ?」
「う、うるさい!!」
「あ~、ホンマ昔っから短気やなぁ」
飄々[ と笑みを浮かべる様は無邪気で。
八年前までの幼い面影を思い出す。
「貴様には、関係、ない」
歯切れなく呟いて、こめかみを押さえる。
こんな阿呆が、あの場所にいるはずがないのだ。
だいたい、ヤヨイさんたちは寡黙な人だったと言っていた。
寡黙という言葉が、この男に当てはまるはずがない。
それなのに、何故だろう。
霧が晴れたような気がするのは。
そして、何故だろう。
「……礼が、言いたかったんだ」
誰にも言わなかったことを、口にしてしまったのは。
「礼?」
「落としかけた命を救ってくれた人に、礼が言いたかったんだ」
でも、気付いたときにはいなくて。
「それで言えなかったから」
「礼なんか言わへんでもええんとちゃう?」
「なっ……」
「せやろ? 目ぇ覚めたときにおらんかったっちゅうことは、別に礼なんかいらんっちゅうことやんか」
珍しく真面目な顔つきで言ったアキラは、舞いゆく花弁を一枚掴む。
「どうしても礼がしたい言うんやったら、生きとればええ」
柔らかく微笑んだ表情は、いつものアキラじゃなくて。
その眼差しは温かく、穏やかで。
「ただ、生きとればええんや。……あんさんも、そう思うやろ?」
黒き髪を風に遊ばせ、アキラは神木を振り返った。
確証は、ない。
でも私は知っている。
あんな表情は初めて見た、と思った。
「初めてじゃ……なかった」
「何や言うたか?」
「いや、何も」
揺らぐ炎の中で。
響く雫の音と共に、朧気に見えたそれは。
穏やかな、深い緑の眼差し。
いらないって言ったけど、それでも。
その笑顔に、小さく呟く。
ありがとう
Fin.
水は、どこから流れてくるのだろうか。
どこまでも澄み切った道は、始まりも終わりも見えない。ただ私の前を、静かに流れている。
ふと、懐かしい気配に顧みると、そこには会えるはずもない人がいた。
「か、母さま……?」
夢か、幻か。
どちらでも構わない。
会えたことがただ嬉しくて、無意識に駆け出す。
「母さま!」
遠い昔に失ってしまった温もり。
長い黒髪をなびかせる母さまは、そっと両手を差し出す。
その手に乗っている一振りは。
「これ……は……」
蓮を象った
ずっとずっと昔に、母さまが使っていた刀。
顔を上げ、視線を刀から母さまに移す。
微笑みを顔に浮かべ、母さまはゆっくりと頷いた。
◇ ◇ ◇
誰だろう。
誰かが呼んでいる。
「……ん、……ちゃん、まちちゃん!」
「ヤ、ヨイさん……? そ、れ……に……」
「気がついたッスか、お松さん」
「カツナリさん!」
かばりと起こした身体に、痛みが走る。
僅かに顔を歪めると、ヤヨイさんが首を傾けて覗き込んできた。
「無理しちゃダメなの。まちちゃんあのままだったら、真っ黒になってたの」
どうやらここは山頂の平地のようだ。
漆黒の灰と化した小屋を、目を細めて見やる。
「ヤヨイさんが、あの小屋から……」
語尾が掠れた問いに答えたのは、カツナリさんだった。
「違うッスよ。俺らが来た時には、お松さん小屋から出てたッスから。だいたい先輩は俺に助けられて……あだっ!」
「ヤヨイたちと似たような格好してて、髪も真っ黒な人が、まちちゃん助けてくれたの」
ヤヨイさんはカツナリさんの頭を華麗に蹴り飛ばし、例の如く座布団にする。
「俺が焔舞で雪を溶かしたから、先輩、助かったんスよ」
低く唸るカツナリさんを黙殺し、ヤヨイさんは身振り手振りを交えて、私を助けた人物について語っていた。
「見たこと無い人だったの。格好だけはほんとにヤヨイたちに似てたんだけど……。あ、目だけ緑だったの。深い緑だったの」
「俺ら、隠密じゃねぇッスよ。先輩が知らねぇヤツはいねぇッスから」
抵抗を諦めたのか、カツナリさんもヤヨイさんの話に付け加える。
「その方はどこに……」
「もう行っちゃったの。何もしゃべらなかったの」
「俺らの仲間ってことはわかったんスけど、誰だかはさっぱり」
「そう、ですか……」
肩をすくめる二人の様子を見ると、本当に知らない人のようだ。
一体、誰が助けてくれたのだろうか。
烏が出て行った後、業火の中で力尽きて……
意識が途切れる寸前のことを思い出し、慌てて二人の顔を見る。
「そ、それよりも。お二人ともどうしてここに? カツナリさんは今までどこに……」
ごく自然に出た問いを投げかけたのだが、カツナリさんは決まりの悪そうに眉間にしわを寄せた。
「俺はヒオリを介して先遣隊との連絡を取ってたわけッス。出発前夜にもヒオリから呼び出されて、例の遺跡に行ったんスけど……」
「はげぴょん閉じこめられたの」
さも馬鹿にしたように、ヤヨイさんがカツナリさんの頭をぺしぺしと叩く。
「ちょっと油断したんスよ。まさかヒオリが黒幕だとは思わなかったッスから」
「それで、どうやってここまで来たんですか?」
「遺跡に生き埋めにされたんスけど、遺跡の石全部斬って、出たときには夜だったわけッス。それから先輩たちの後を急いで追ったんスが、峡谷の道が崩れてるわ、雪で行き止まりになってるわで」
はぁ、と一つため息をついて言葉を繋げる。
「んで、その邪魔な雪を溶かしたら先輩が出てき……ぐぇっ!」
しかし、最後まで言い切る前に、大地にひれ伏した。
ヤヨイさんに頭を足蹴にされて。
「道は上しかなかったから、断崖を登ってきたの。ほんと、はげぴょん今回役立たずだったのっ」
「……そ、そうだったんですか。商隊の方たちは……?」
「先輩と同じ雪に埋もれてた人は無事ッスよ」
「よかった……」
それでも、初回の雪崩に巻き込まれた人たちは。
自分の情けなさに拳を握り締める。
一番役立たずだったのは、私だ。
私一人では、何もできなかった。
そっと握りしめていた手を開くと、ひとひらの雪が舞い降りた。
「これは……」
「また、雪なの」
「もう春なのによく降るッスねぇ」
降り注ぐこれは、任務中何度も見た、粉雪。
手の中に降り立つと、溶け込むようにしてその姿を消す。
大地に降りた者も、小屋に降りる者も。
そうして舞い降りては、溶け込み……
「雪は……」
掠れた声で呟いた言葉は、自分が思うより大きかったようだ。
相変わらずヤヨイさんの座布団になっているカツナリさんが、目で尋ねてくる。
「何スか? 雪が?」
「雨が、神さまの涙なら……雪は何だろうな、と」
風の中を踊りながら落ちてくる粉雪を見上げ、幼い頃の疑問を呟く。
「雪は、浄化らしいッスよ」
「じょ、浄化……?」
まさかカツナリさんから答えが返ってくるとは思っていなかった。
ヤヨイさんを背に乗せたまま、頬杖をつく。
そして、どこか遠くを見つめるようにカツナリさんは笑った。
「お袋からそう聞いたって、リュウジが言ってたッス」
「兄さまが……」
「一年の終わりに、その年の
一年の終わり。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来る。
また、新たな春を迎えるために、年の終わりには雪が降る。
「彼女も浄化されるのだろうか……」
「ひおりちゃんなら、大丈夫なの」
「ヤヨイさん……」
私よりも遙かに長い時を、ヤヨイさんたちは過ごしてきたのだ。
あの、彼女と。
「きっと、大丈夫……なの」
微笑んだヤヨイさんの目尻がきらりと光る。
無言で空を見上げるカツナリさんも、想いは同じなのだろうか。
追悼の雪が、灰となった小屋の上にひらひらと舞い降りていた。
◇ ◇ ◇
あれは三年前の春のこと。
境内の一角にある池の畔で、私は舞いゆく花弁を眺めながら、回想にふけっていた。
多くの課題を残したあの任務は、失敗ではなかった。
本当に古文書を運んでいたのは、本隊でもなければ、もちろん先遣隊でもなく。
たった一人の商人がそれを裏でこなしたのだと。
村に戻った私は父上から聞かされたのだ。
ただ一つだけ、謎のままだったのは。
「結局、わからず終いだったな……」
「なぁに、しけた顔しとるんや?」
突如降ってきた苦手な声に、怒気を含んだ言葉を返す。
「貴様には関係ないことだ」
「えらぃ悩んでるみたいやなぁ? 何や何や、好きな人でもできたんか?」
「阿呆! ふざけたことを抜かすな!」
社の前で刀は抜かない。
一年前に茶化されたことを思い出し、刀ではなく、手刀を叩き込む。
しかし、読まれていたのか、右手はあっさりその男に掴まれた。
「あかんて、おなごがそないに技ぁ出したら。あんさんカルシウムが足りないんとちゃう?」
顔を覗き込むようにして、男は私に目線の高さを合わせてくる。
「たっ……戯け! 離れろ!」
「おー、おー。おっかないわぁ~」
平手をひらりとかわし、ちょうど一年前に帰ってきた幼馴染みは、背後に佇む神木を顧みた。
今年は、もう満開の花が咲いている。
彼の後ろ姿を見つめながら、私は何度も深呼吸を繰り返した。
そんなわけがない。
あの任務で、アキラは古文書を極秘で届けていたのだから。
私たちとは違う道を通って。
全身が早鐘を打つ。
うるさいほどの鼓動が耳に響いた。
でも、あれは……
「どないしたん? 顔真っ赤やでぇ?」
「う、うるさい!!」
「あ~、ホンマ昔っから短気やなぁ」
八年前までの幼い面影を思い出す。
「貴様には、関係、ない」
歯切れなく呟いて、こめかみを押さえる。
こんな阿呆が、あの場所にいるはずがないのだ。
だいたい、ヤヨイさんたちは寡黙な人だったと言っていた。
寡黙という言葉が、この男に当てはまるはずがない。
それなのに、何故だろう。
霧が晴れたような気がするのは。
そして、何故だろう。
「……礼が、言いたかったんだ」
誰にも言わなかったことを、口にしてしまったのは。
「礼?」
「落としかけた命を救ってくれた人に、礼が言いたかったんだ」
でも、気付いたときにはいなくて。
「それで言えなかったから」
「礼なんか言わへんでもええんとちゃう?」
「なっ……」
「せやろ? 目ぇ覚めたときにおらんかったっちゅうことは、別に礼なんかいらんっちゅうことやんか」
珍しく真面目な顔つきで言ったアキラは、舞いゆく花弁を一枚掴む。
「どうしても礼がしたい言うんやったら、生きとればええ」
柔らかく微笑んだ表情は、いつものアキラじゃなくて。
その眼差しは温かく、穏やかで。
「ただ、生きとればええんや。……あんさんも、そう思うやろ?」
黒き髪を風に遊ばせ、アキラは神木を振り返った。
確証は、ない。
でも私は知っている。
あんな表情は初めて見た、と思った。
「初めてじゃ……なかった」
「何や言うたか?」
「いや、何も」
揺らぐ炎の中で。
響く雫の音と共に、朧気に見えたそれは。
穏やかな、深い緑の眼差し。
いらないって言ったけど、それでも。
その笑顔に、小さく呟く。
Fin.