[更新]本編改稿分最終話
最終話なんてついていますが、「本編」改稿分ですw
先程UPした「第48記 足枷」が2年半前に掲載した最後の話になります。
次回掲載分は第49記にはなりませんorz
すみません、もう少しリハビリさせてください;
2年半前はあの文章量を1日1話ペースで上げていた自分がホントに凄いと思います。拙いけど。
まぁ、学生だったっていうのもあるんですけどね。
ってことで、次回はカテゴリだけあって、アップされていない番外編をアップします。
とりあえず、手直しが少なそうな「陽炎」から。マツザワの一人称です。
旧読者様にはすみませんっ! 新読者様はよろしければ番外編もお付き合い下さいm(_ _)m
合間合間に秋の短編連載を頑張ります……!
先程UPした「第48記 足枷」が2年半前に掲載した最後の話になります。
次回掲載分は第49記にはなりませんorz
すみません、もう少しリハビリさせてください;
2年半前はあの文章量を1日1話ペースで上げていた自分がホントに凄いと思います。拙いけど。
まぁ、学生だったっていうのもあるんですけどね。
ってことで、次回はカテゴリだけあって、アップされていない番外編をアップします。
とりあえず、手直しが少なそうな「陽炎」から。マツザワの一人称です。
旧読者様にはすみませんっ! 新読者様はよろしければ番外編もお付き合い下さいm(_ _)m
合間合間に秋の短編連載を頑張ります……!
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2010/09/15 (Wed) 22:40 |
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第48記 足枷
真夏の宵に響く雨音。
瓦 を叩くその音色に耳を傾けながら、ユウは伏せっている兄を見つめた。
昼過ぎには時折笑顔を零[ していたというのに。
生気のない表情を見る度に、ユウは拭い去れない不安を胸に抱く。
「私は……治療師です……」
そう何度自身を奮い立たせただろうか。
数多の薬草を扱え、幾多の傷を癒してきた治療師であっても、治すことができないものも、ある。
目の前には患者がいて、傷を抱えているのに何一つできない自分。
その無力さを突きつけられたのは、今回だけではない。
あの日も、あの時も。
悔しさに唇を噛み締めた時、扉が開かれる音がした。
顔を上げた彼女の前に現れた男は、紅い双眸を険しくさせる。
「ユウ、あの日の出来事を、覚えているか」
一つ一つ確かめるように問う男に、ユウは微かに頷く。
「始まって……しまったのですね……」
「いずれ訪れるものだった」
もはや、動き出した歯車を止めることはできない。
表情を変えることなく、男は眠るアキラを見つめた。
「アキラは…… 」
雨音に呑まれた言葉は、ユウの中で覚悟の二文字に変わる。
兄の枕元から立ち上がった彼女は、一族を束ねる男と共に、家を後にした。
ふわりと風にアキラの髪が揺れた。
ただ一人横たわる彼を眺め、現れた影は一つ伸びをした。
「こりゃまた重症で」
涙目になった影は、だるそうに頭を掻く。
「リハビリなしでいきなりこれかよー。ったくよぉ……」
闇に墜ちている青年の額に、影がそっと右手を当てた。
竹格子にはめられたガラスが、かたかたと身を揺らす。
「人使いあれぇんだよ、あのババァ」
静かな民家の一部屋で、影は不敵に微笑んだ。
◇ ◇ ◇
気を失っていた少年のアレノスは、重い瞼を開いた。
先刻身体を切り刻んだ、あの痛い魔力は何処にもない。
のろのろと首を動かすと、捕らえたはずの贄[ と捕らえるはずの贄が、一カ所に固まっていた。
しかし獲物を見据えようとした視線は、別の対象に囚われる。
歓喜のあまりに飛び起き、アレノスは両翼を羽ばたかせた。
「は、ハーネットサマ!!」
三角帽子を被った少女が、名を呼ばれ口端を吊り上げる。
少女の傍らに降り立ったアレノスは、声高らかに言い放った。
「ヒヒヒ、オマエラ終わりだ!! イヒヒ!」
「ご苦労さまぁ」
「ヒヒヒ……!?」
驚愕に凍り付くアレノスの両眼に映った麗しき主君は、温かく微笑んでいた。
前触れもなく、音もなく、羽 は飛び散った。
それの両翼を覆っていた赤い羽だけが、傍観者たちの頬を掠める。
嫌悪感を露[ わに、森の主ラスは言った。
「部下じゃねぇのか?」
「ぷっ、部下? ミーの部下ぁ? あは、あはははっ! 笑わせてくれるんだねー、半端モノのくせにさ」
「……」
ほんの一瞬。ラスの顔が陰る。
リードは、父親の僅かな動揺を見逃さなかった。
「お……や……」
親父、と。
たったそれだけの言葉が出ない。
らしくない。何故そんな顔をするんだ。
ラスの表情は怒りでも痛みでも辛さでも、どの色でもなく。
無色が表す感情は、ラス自身を縛り付けていた。
「あ……ひょっとして、気にしてたり、とかしましたぁ? ミーったら、正直者でごめぇん」
「てめ……! ピュアを返せよ!」
「エルフはさぁ……。役立たずなんですよねぇ」
すっと目を細め、ハーネットは右手の人差し指を唇に当てる。
「てめぇの役に立つ気なんかねぇよ。ピュアを返せ!」
「だからさぁー。これはぁー、次のアレノスの実験だ~いになるのでーす、ってさっきっからそう言ってんじゃん?」
「ふざけんな、ピュアを」
「リード」
冷え切った声が、リードの言葉を遮る。
「親父、何で……!?」
顧みた息子に対し、ラスはただ首を横に振った。
「そうそう、物わかりいいですねー、聖霊は。実験台にもならないエルフとは大違いっ」
「屈め! 当てられるぞ!」
純白の毛並みを逆立て、ディオウが怒鳴る。
刹那、黒光りを伴う魔力が爆発した。
不快な熱気を纏った風が、木々を吹き荒らす。
巻き上がった砂塵の向こうに、ハーネットの姿はない。
「ピュア!?」
「せっかく見つけた珍しい聖霊、返すわけあーりませ~ん」
声だけが、森に反響している。
姿を探そうと試みるも、気配の片鱗すら感じられない。
「じゃ、ご挨拶はこれくらいにして、ミーはラボに戻りますぅ~」
「やだ、リード! リード、りー…… 」
「ピュア!? 返事しろ、ピュア!!」
一度途絶えた声は、いくら呼びかけても応えない。
森に木霊するのは己の声のみで。
失ったという現実が突き刺さる。
「っ! ちっくしょぉお !!」
慟哭は、雨止まぬ空を切り裂いた。
◇ ◇ ◇
草を踏む足音に、ラキィは背後を振り返る。
その先にいたのは、右肩に黒い布を羽織った若い男。
緋色の長髪を風に流し、彼は鋭い目つきでラキィを見下ろす。
「おい、小動物」
「な、何よ……」
「銀髪の男、見なかったか?」
後退るラキィを気にも止めず、目的だけを訊く。
漂う魔力の冷たさに、ラキィは身震いをした。
「し……知らないわよ、そんな人っ」
「ちっ……」
舌打ちして男は身を翻し、会いたくない姿を思い浮かべて、毒突いた。
「何暴れてるんだよ、あの野郎……!」
二人が出会ってしまう前に、伝えなければならない。
彼が真実を知る前に、渡さなくてはならないものがある。
それを届けるために、生きてきたのだから。
◇ ◇ ◇
「何で! 何で親父何もしなかったんだよ!?」
「木々[ を犠牲にしてまで、捕らえることはできねぇよ……」
「ピュアだって家族だろ!?」
詰め寄る息子に、ラスは口をつぐんだ。
聖霊として、この地を預かってからできたものは、家族と足枷。
蠢[ く怒りは己の中に封じ込め、突き出した拳は腹の中で噛み砕く。
統治者である以上、私情に囚われ、森[ を危険にさらすわけにはいかないのだ。
その重みを、リードは知らない。
知らせる必要もないと、ラスは思っていた。
「何で、何で……!」
「殴りたかったら、殴れ」
それで気が済むのなら、いくら殴られようと構わない。
しかし、リードは俯いて首を振る。
「馬鹿親父を殴っても、ピュアは戻らねぇよ……」
涙を浮かべつつも、決して手を上げようとしないリードに、ラスの罪悪感は嵩を増した。
すまない。必ず、家族は助けるから。
自身の力だけでは確約できない想いを抱き、ラスは息子の頭をそっと撫でた。
親子のやりとりを尻目に、ディオウは空を仰いだ。
ハーネットが消える瞬間、何か空にいたような気がしたのだ。
「気のせいか……?」
落ちてくるのは雨滴のみ……ではなく。
舞い降りてきた一枚の羽を見て、両眼に剣呑さが宿った。
「この羽は……。まさか、な……」
「そのまさかだと思うぜ?」
独り言に返ってきた声に、ディオウは顔を上げる。
左手で緋色の前髪を掻き上げ、現れた男は嘆息した。
「相変わらず、小鳥サイドは情報力が乏しいんだな」
「貴様……この森に何をしに来た?」
常人が此処まで来れるはずがない。
鋭い眼光を向けるディオウに、彼は臆することなく答える。
「人捜しだよ。……ここにはもういねぇみてぇだけどな」
「こんな森に人捜しだと?」
「あぁ。銀髪の男を、な……」
男の胸元で髑髏の首飾りが揺れる。
まるで涙を流してるかのように。
髑髏は、雨に打たれていた。
昼過ぎには時折笑顔を
生気のない表情を見る度に、ユウは拭い去れない不安を胸に抱く。
「私は……治療師です……」
そう何度自身を奮い立たせただろうか。
数多の薬草を扱え、幾多の傷を癒してきた治療師であっても、治すことができないものも、ある。
目の前には患者がいて、傷を抱えているのに何一つできない自分。
その無力さを突きつけられたのは、今回だけではない。
あの日も、あの時も。
悔しさに唇を噛み締めた時、扉が開かれる音がした。
顔を上げた彼女の前に現れた男は、紅い双眸を険しくさせる。
「ユウ、あの日の出来事を、覚えているか」
一つ一つ確かめるように問う男に、ユウは微かに頷く。
「始まって……しまったのですね……」
「いずれ訪れるものだった」
もはや、動き出した歯車を止めることはできない。
表情を変えることなく、男は眠るアキラを見つめた。
「アキラは……
雨音に呑まれた言葉は、ユウの中で覚悟の二文字に変わる。
兄の枕元から立ち上がった彼女は、一族を束ねる男と共に、家を後にした。
ふわりと風にアキラの髪が揺れた。
ただ一人横たわる彼を眺め、現れた影は一つ伸びをした。
「こりゃまた重症で」
涙目になった影は、だるそうに頭を掻く。
「リハビリなしでいきなりこれかよー。ったくよぉ……」
闇に墜ちている青年の額に、影がそっと右手を当てた。
竹格子にはめられたガラスが、かたかたと身を揺らす。
「人使いあれぇんだよ、あのババァ」
静かな民家の一部屋で、影は不敵に微笑んだ。
◇ ◇ ◇
気を失っていた少年のアレノスは、重い瞼を開いた。
先刻身体を切り刻んだ、あの痛い魔力は何処にもない。
のろのろと首を動かすと、捕らえたはずの
しかし獲物を見据えようとした視線は、別の対象に囚われる。
歓喜のあまりに飛び起き、アレノスは両翼を羽ばたかせた。
「は、ハーネットサマ!!」
三角帽子を被った少女が、名を呼ばれ口端を吊り上げる。
少女の傍らに降り立ったアレノスは、声高らかに言い放った。
「ヒヒヒ、オマエラ終わりだ!! イヒヒ!」
「ご苦労さまぁ」
「ヒヒヒ……!?」
驚愕に凍り付くアレノスの両眼に映った麗しき主君は、温かく微笑んでいた。
前触れもなく、音もなく、
それの両翼を覆っていた赤い羽だけが、傍観者たちの頬を掠める。
嫌悪感を
「部下じゃねぇのか?」
「ぷっ、部下? ミーの部下ぁ? あは、あはははっ! 笑わせてくれるんだねー、半端モノのくせにさ」
「……」
ほんの一瞬。ラスの顔が陰る。
リードは、父親の僅かな動揺を見逃さなかった。
「お……や……」
親父、と。
たったそれだけの言葉が出ない。
らしくない。何故そんな顔をするんだ。
ラスの表情は怒りでも痛みでも辛さでも、どの色でもなく。
無色が表す感情は、ラス自身を縛り付けていた。
「あ……ひょっとして、気にしてたり、とかしましたぁ? ミーったら、正直者でごめぇん」
「てめ……! ピュアを返せよ!」
「エルフはさぁ……。役立たずなんですよねぇ」
すっと目を細め、ハーネットは右手の人差し指を唇に当てる。
「てめぇの役に立つ気なんかねぇよ。ピュアを返せ!」
「だからさぁー。これはぁー、次のアレノスの実験だ~いになるのでーす、ってさっきっからそう言ってんじゃん?」
「ふざけんな、ピュアを」
「リード」
冷え切った声が、リードの言葉を遮る。
「親父、何で……!?」
顧みた息子に対し、ラスはただ首を横に振った。
「そうそう、物わかりいいですねー、聖霊は。実験台にもならないエルフとは大違いっ」
「屈め! 当てられるぞ!」
純白の毛並みを逆立て、ディオウが怒鳴る。
刹那、黒光りを伴う魔力が爆発した。
不快な熱気を纏った風が、木々を吹き荒らす。
巻き上がった砂塵の向こうに、ハーネットの姿はない。
「ピュア!?」
「せっかく見つけた珍しい聖霊、返すわけあーりませ~ん」
声だけが、森に反響している。
姿を探そうと試みるも、気配の片鱗すら感じられない。
「じゃ、ご挨拶はこれくらいにして、ミーはラボに戻りますぅ~」
「やだ、リード! リード、りー……
「ピュア!? 返事しろ、ピュア!!」
一度途絶えた声は、いくら呼びかけても応えない。
森に木霊するのは己の声のみで。
失ったという現実が突き刺さる。
「っ! ちっくしょぉお
慟哭は、雨止まぬ空を切り裂いた。
◇ ◇ ◇
草を踏む足音に、ラキィは背後を振り返る。
その先にいたのは、右肩に黒い布を羽織った若い男。
緋色の長髪を風に流し、彼は鋭い目つきでラキィを見下ろす。
「おい、小動物」
「な、何よ……」
「銀髪の男、見なかったか?」
後退るラキィを気にも止めず、目的だけを訊く。
漂う魔力の冷たさに、ラキィは身震いをした。
「し……知らないわよ、そんな人っ」
「ちっ……」
舌打ちして男は身を翻し、会いたくない姿を思い浮かべて、毒突いた。
「何暴れてるんだよ、あの野郎……!」
二人が出会ってしまう前に、伝えなければならない。
彼が真実を知る前に、渡さなくてはならないものがある。
それを届けるために、生きてきたのだから。
◇ ◇ ◇
「何で! 何で親父何もしなかったんだよ!?」
「
「ピュアだって家族だろ!?」
詰め寄る息子に、ラスは口をつぐんだ。
聖霊として、この地を預かってからできたものは、家族と足枷。
統治者である以上、私情に囚われ、
その重みを、リードは知らない。
知らせる必要もないと、ラスは思っていた。
「何で、何で……!」
「殴りたかったら、殴れ」
それで気が済むのなら、いくら殴られようと構わない。
しかし、リードは俯いて首を振る。
「馬鹿親父を殴っても、ピュアは戻らねぇよ……」
涙を浮かべつつも、決して手を上げようとしないリードに、ラスの罪悪感は嵩を増した。
すまない。必ず、家族は助けるから。
自身の力だけでは確約できない想いを抱き、ラスは息子の頭をそっと撫でた。
親子のやりとりを尻目に、ディオウは空を仰いだ。
ハーネットが消える瞬間、何か空にいたような気がしたのだ。
「気のせいか……?」
落ちてくるのは雨滴のみ……ではなく。
舞い降りてきた一枚の羽を見て、両眼に剣呑さが宿った。
「この羽は……。まさか、な……」
「そのまさかだと思うぜ?」
独り言に返ってきた声に、ディオウは顔を上げる。
左手で緋色の前髪を掻き上げ、現れた男は嘆息した。
「相変わらず、小鳥サイドは情報力が乏しいんだな」
「貴様……この森に何をしに来た?」
常人が此処まで来れるはずがない。
鋭い眼光を向けるディオウに、彼は臆することなく答える。
「人捜しだよ。……ここにはもういねぇみてぇだけどな」
「こんな森に人捜しだと?」
「あぁ。銀髪の男を、な……」
男の胸元で髑髏の首飾りが揺れる。
まるで涙を流してるかのように。
髑髏は、雨に打たれていた。