[SS?]真昼の蒼星
相互様であるびたみんさんから、素敵な子をお借りして、読み切りを書きました。
美麗イラストの掲載許可もいただきました☆

↑クリックで拡大。今作の主人公です。
このびたみんさんの描いた「エベレスト擬人化チベット少年」があまりに可愛かったので、
勝手に妄想し、勝手に駄文を連ねてしまいました。
素敵な子をお借りしたにもかかわらず、完全にキャラ崩壊。
びたみんさんすみませんーー><
お題は、「エベレスト擬人化」「チベット少年」「強い信念」だったわけですが。
もう……ど う し て こ う な っ た
びたみんさんの美麗なイラストイメージを崩壊させたくない方は回れ右でっ!
覚悟ができた方は追記からどうぞ。読み切りです。予備知識は必要ありません。
〝強さ〟に焦がれる少年。
〝優しさ〟を探す少女。
二人の約束は今でも続いている――
――また、いつか……
真昼の蒼星 -マヒルノソウセイ-
美麗イラストの掲載許可もいただきました☆

↑クリックで拡大。今作の主人公です。
このびたみんさんの描いた「エベレスト擬人化チベット少年」があまりに可愛かったので、
勝手に妄想し、勝手に駄文を連ねてしまいました。
素敵な子をお借りしたにもかかわらず、完全にキャラ崩壊。
びたみんさんすみませんーー><
お題は、「エベレスト擬人化」「チベット少年」「強い信念」だったわけですが。
もう……ど う し て こ う な っ た
びたみんさんの美麗なイラストイメージを崩壊させたくない方は回れ右でっ!
覚悟ができた方は追記からどうぞ。読み切りです。予備知識は必要ありません。
〝強さ〟に焦がれる少年。
〝優しさ〟を探す少女。
二人の約束は今でも続いている――
――また、いつか……
真昼の蒼星 -マヒルノソウセイ-
がたがたがた。
たった一本の蝋燭で照らされた小屋は、いつ大破してもおかしくないほどに震えていた。
外は風が吹き荒れる大嵐。まるで何か迫り来る者を拒むように、空も海も慟哭している。
「嫌な予感がする……」
一人小屋の中で膝を抱え、少女は哀しげに目尻を下げた。
肌身離さず持ち歩いている首飾りが、胸元で僅かに揺らぐ。
ペンダントトップは小さな巻貝。その巻貝と鎖の間に、小指の爪ほどの瑠璃石が仄かな光を帯びている。
巻貝をそっと耳に当てると、いくつもの音が彼女の耳に押し寄せた。
荒れた波の音。猛る風の音。微かな、鳥の鳴き声。
「違う。鳴いているんじゃない」
泣いている。
がばりと顔を上げて、外へ繋がる扉を見つめる。
「行かなきゃ」
自分自身を奮い立たせるように呟くと、少女は扉を開け放して外へ飛び出した。
雄叫びを上げる豪風が、少女の柔らかい黒髪を弄ぶ。白い肌には容赦なく雨滴が襲ってきた。
それでも彼女は足を止めない。右腕を額にかざし目を堪えながら、声の主を探す。
今行くから、泣かないで。
声を頼りに足を進めてきたが、もはや目の前は嵐の海だ。
くるりと辺りを見回しても、荒れ狂う大波に打たれている港には、人っ子ひとり見当たらない。
「どこ……どこで泣いているの? 助けに来たから、返事をして!」
荒波の音に負けじと大声を張り上げるが、返ってくるのは波と風の咆哮だけ。
瑠璃石の放つ光が途絶えていないのだから、どこかにいるはずなのに。
ぎゅっと巻貝を握り締め、少女は陸地ではなく海原へ視線を投じる。近くにいるとしたら、もうそこしかない。
少女を嘲笑うかのような向かい風と豪快にうねる高波。その大自然に挑んだ眼差しの先に、白が見え隠れする。
「あ……!」
いた。
暗い青に揉まれて今にも海底に引きずられそうな、真っ白な鳥が。
「もう少し待って! 今、助けるから!」
そう言い切らない内に靴を投げ出すと、微塵 も躊躇[ うことなく少女は嵐の海へ身を投げた。
* * *
肌に刺さる冷たい風を全身で受けながら、少年は遥か彼方を眺めていた。
その表情は連なる高峰のように険しく、雪のように透き通る白い肌が彼の凛々しさを一層引き立ている。
「ん……」
虚空に響いた小さな声を聞いて、少年の腕に止まっていた鳥が忙しなく飛び立っていった。
落ちてきた白い羽を掴み取り、彼は傍らに横たわる少女を見つめる。
赤い衣に身を包んだ少女は、眠たげにあくびをしながらゆっくりと起き上がった。
涙目になった黒い瞳が、陽の光を受けてきらりと光る。つやのある黒髪が風に流れ、桃色の唇からこぼれる吐息が冷気で白く染まった。
顔にかかる横髪を耳にかける仕草が可愛らしい。どくりと鼓動が弾け、頬に熱が集まるのを自覚する。
滅多に人に会うことがないからだ。
そう決めつけて、努めて静かに声をかけた。
「目が、覚めたか?」
「うん……? あれ、キミは……」
しばらく少女は小首を傾げて目をこすっていたが、何かに気付いたのか、瞳を大きく見開く。
それと同時にすくっと立ち上がり、声を張り上げた。
「ああぁー!」
びりびりと大気を震わす大声が鼓膜を貫き、思わず少年は耳を押さえた。
気が付けば、彼女は目の前にいる。
「ど、どうした?」
突然詰め寄られたことに戸惑い、一歩片足を引いた。
何か気に触るようなことをしてしまったのだろうか。
「キミ、白い鳥さん見なかった!?」
「と、鳥がどうかしたのか?」
「昨日の夜、嵐の海で溺れている鳥さんを助けて、陸地まで戻ったと思ったら急に強い風が吹いて、気が付いたらキミがいて。その鳥さん見なかった? 雪みたいに真っ白の!」
「ああ……ディセのことか。お前が助けてくれたんだな。……悪かったな」
「え?」
「お前が助けたのは俺の鳥だ。怪我はない。さっきまた飛んでいった」
「そっか、飛べるんなら大丈夫だね! よかったぁ」
ふわりと微笑んで、少女は両手を上げて伸びをした。
「んー、空気が美味しいなぁ。とても澄んでいて、塩の味がしなくっ……て?」
「塩……?」
「――って、ひゃぁ!?」
「今度は何だ?」
怪訝そうに眉根を寄せ、再び大声を上げた彼女に尋ねる。
だが、その答えは返ってこなかった。少女は両目を大きく見開いたまま、文字通り固まっている。
「大丈夫か……?」
死にかけていたディセを連れ戻すためだとはいえ、実は半ば無理やりに彼女を攫ってきたのだ。もちろん意図せずに連れてきてしまった形ではあるが、罪悪感は拭えない。
もしかしたら、途中でどこかにぶつけてしまったのかもしれない。いや、何か大切な物を落としてしまったのかも。
泣かれる前に大人しく白状すべきだろうか。〝この景色〟に囲まれていたら、どう考えても隠し通すことは不可能だ。
すまなかった。すぐに帰すから。
そう謝らなきゃいけないと思う一方で、もう少しこのままでいたい気持ちが喉で言葉をせき止める。
でも、ここでは人は生きていけない。一緒に長くいれば、その分帰したくなくなるのだから。
今、伝えなければ。
「すまなかっ」
「すてき……」
「はぁ?」
意を決して声にした謝罪を遮られ、柄にもなく間抜けな声を上げてしまう。
一方少女は、そんな少年の葛藤にはまるで気付かずに、目の前に広がる〝この景色〟に心を奪われていた。
「お空の海は、こんなにきれいなんだね……」
どこまでも続く雲は、時折波のように揺らぎ、二人が立つ島に打ち寄せる。
それは、白い海。雲海。
島のように見えるこの場所は、遥か上空まで突き抜ける山の頂[ 。
頭上高くから降り注ぐ光を受けた島の影が、白い海に映っていた。
踏みしめる大地の色も白。辺り一面真っ白な雪だ。
透き通る青い空を除けば、ここは白の世界。
その世界に佇む二人だけが、鮮やかな彩りを添えていた。
「雲海、初めて見たのか?」
「うん。ずっと憧れてた。一生かかっても見られないと思ってた……それがこんなにきれいだったなんて。想像してたのより、ずっとずっとすてき」
〝この景色〟を見慣れている少年にとっては、すてき、と笑う少女の方が綺麗に見えた。
「こんな偽物の海より、本物の海の方が俺は……」
「どうして? こんなにきれいなのに……」
「所詮ここの海は紛い物だ。その海の中に生き物はいない。ただの雲に過ぎない。何も島に運んでくれない……」
こんな、こんな、孤独な世界よりも、ずっと。
大空を仰いで、少年は胸に秘めた想いを言の葉に乗せていく。
「青い海は強い。壮大で多くの生き物を育んでいる。世界の起源だ。俺もそんな風に、海のように強くありたい」
左手に持つ杖を握り締めて、雄大な海へと想いを馳せた。
そう、強くなりたい。
強くなれば、たった独りでも生きていける。
その高鳴る気持ちを否定するように、冷たい少女の声がやたらと大きく耳に響く。
「強くなんか……ないよ……」
苦しげに顔を歪めた少女は、目を瞠る少年の胸板に両拳を叩きつけ、泣き出しそうな声音で叫んだ。
「強くなんか! 海はちっとも強くなんか、壮大なんかじゃない!」
何をそんなに怒っているんだ。わからない。
「強くなんかない! 弱くて、みっともなくて、いつも誰かを傷つけて……!」
ぽたぽたとこぼれ落ちた彼女の涙が、少年の衣に染みを作る。
よく見るとそれは涙だけではなかった。彼女の髪からも衣服からも、まるで全身で泣くように水の雫が落ちていく。
そして震える拳が、肩が、声が、徐々に薄らいで――
「おい、お前、どうした!? しっかりしろ!」
少年は咄嗟に彼女の両肩を揺すった。
彼の手から離れた杖が雪に埋まり、一陣の風が山頂を吹き抜けた。
「もう、帰らなきゃ。これ以上ここにはいられない」
「だったら、俺が……ディセに、ディセに送らせるから!」
「ありがと。でも、もう無理だよ。時間がない」
「時間がないって」
大粒の涙を浮かべながら、少女は精一杯の笑顔を作り、少年に向けた。
「長く海から……自分から離れ過ぎた」
あぁ……そうか……
同じだ。自分と。
離れようとする彼女の腕を強引に引き寄せる。
身につけていたマフラーを外して、驚く彼女の首にかけた。
「悪かった。無理やり連れてきて」
すっぽりと少年の腕に収まった少女に色が戻っていく。
「うそ……どうして、戻ったの? 水になりかけていたのに……」
「お前がオホーツク海なら、俺は何だと思う?」
「じゃぁキミは……この山なの……?」
問い返しには答えずに、少年は少女の髪を撫でながら想いを口にする。
「俺は好きなんだ。海がずっと前から」
「え……?」
彼女を帰す前に、何とかして伝えたい。
海の偉大さを。ずっと焦がれている想いを。
「俺はここから動けないから、もう一人の俺であるディセで世界中の海を見て回っていたんだ」
「じゃぁ……あの白い鳥さんも……」
「お前が助けてくれなかったら、俺は今ここにいないだろうな。ディセは俺だから、きっとディセが死んだら俺も……それでもよかったんだ。ここでずっと誰かを待つより、大好きな海に溶けてしまう方が」
「そ、そんなのって!」
「それくらい好きなんだ、俺は」
真っ直ぐな眼差しを向けられた少女の頬が赤く染まった。
「そ、そんな風に言ってもらえたの、初めて」
でも、と目尻を下げて、彼女は語る。
「海は、怖いんだよ。色んな国の人が、船に乗ってやって来る。遊びに来るわけでもないし、友達になりに来るわけでもない。あの土地がほしいから。自分たちの住む場所は十分あるのに、それでも土地を、国をほしがるの」
再び涙を流しながら、少女は少年に懺悔を続けた。
「だから海がなければ、あの港のみんなも穏やかに暮らせたかもしれない。国境を……海を、うちをまたいでいるから、あんなに、ひどいことができるんだよっ……自分の、仲間じゃないから……」
一息吸って、濡れた顔を少年の胸に埋める。
「うち、自分のこと嫌いだった。誰も守れなくって、弱くって。誰に優しくすればいいのかわかんなくて。誰かを守るためには、誰かを犠牲にしなきゃいけなくて。迷っていたら、大切な友達も守れなかった……」
少年は少女の苦渋を無言で聞いていた。崩れ落ちそうな彼女を両腕で支えながら。
「だ、からっ、だから、せめて嵐の日に、助けを求めてる声を探して、罪滅ぼしをしてる気になってたの……」
「そうか……」
きっと彼女も、自分と同じように誰にも心情を言えずに苦しんでいたのだろう。
人は、自分と違うモノを恐れるから。
だから人の振りをして。少しでも温もりに触れたくて。
その温もりに触れれば触れるほど、己の非力を嘆いていたのだろう。
「ありがとう……話を聞いてくれて」
「いや、何も助けれやれなくて、すまなかった。知らずに傷つけたな」
「そ、そんなことないよ! 嬉しかったんだよ、うち、好きだって言ってもらえて……う、海のことだから、うちだけのことじゃないけど!」
驚いたり、笑ったり、慌てたり、そうころころ表情を変える彼女が素直に可愛いと思った。
滅多に会えない人だからではなく、憧れている海だからでもなく。
「お前、名前は?」
「うちの? うちはルリ。アイヌ語で海って言う意味だって、昔初めて友達になってくれた子が付けてくれたの」
「ルリか。じゃぁ言い直すよ」
「え、何を?」
きょとんとするルリにいたずらな笑みを向けると、少年は彼女の耳元で小さく呟いた。
「俺はルリが好きなんだ」
震える彼女の吐息が耳をくすぐる。
互いの温もりから伝わる鼓動。それだけが早鐘のように鳴り響き、二人の時を止めていた。
できることなら、ずっとこのままでいたい。叶わない願いでも今だけは――
どれくらいそうしていただろうか。
長い沈黙の後に、ルリが口を開いた。
「キミの、名前は?」
「名前、か……。俺にはわからない。色々呼ばれているけど、どれが俺の名前なのか、俺は知らない」
「そっか……」
「お前なら、この山をなんて呼ぶ?」
ルリが住む地からはこの山は見えない。
しばらく考え込んだ後、彼女は柔らかい笑みを浮かべた。
「ルイカ。うちの……アイヌの言葉で、橋という意味なの」
「橋……」
「うん。この山は国と国を繋いでいる。それも、チベットとネパールだけじゃなくて、世界中を繋いでいる山だから。きっと多くの人がこの景色を見たくて、この山に憧れていると思う」
「ここがどこだか、わかるのか?」
「うん。雪が教えてくれたの。ここは世界の頂だって。キミと同じように、この山はいろんな名前があるけど、ルイカってうちはそう呼ぶかな」
彼女がそう呼んでくれるなら。
「じゃぁそれが、俺の名前だ。俺はここだから」
ルリは一瞬目を見開いたが、すぐにまた微笑んだ。
「ルイカ……?」
「何?」
少年の頬を両手で包み、僅かに首を傾げて想いを告げる。
「うちも、ルイカが好き」
「え、な……にを、いきなり……」
「あ、ルイカ赤くなった。ほっぺがあったかくなった」
「な……」
無邪気なルリに呑まれ、言葉が出てこない。
嬉しいはずなのに、胸が締め付けられるほど辛い。
だって、だって、彼女は。
「ずるいよ。ルイカはうちに好きって言ってくれたのに、うちはルイカのこと好きになっちゃダメなの?」
「そんなんじゃ、ない。けど……」
ずっと傍にいられるわけじゃない。
こうして触れていられることが、じきに叶わなくなる。
「もう……帰らなくちゃいけないんだろ?」
笑顔を向けてくれる彼女を離したくない。このまま、帰したくない。
それが望んではいけないことだと思っていても。
「ここにいちゃだめなのか? 俺の物を、俺を身に付けていれば、ここでもそのままでいられる。だから」
「ありがと……このマフラー、大切にする。でも」
一旦言葉を区切って、ルリは目を伏せる。
そして首を横に振ると、ゆっくりと瞼を上げて少年を見上げた。
「でも、やっぱり帰らなきゃ。あの港の人たちを守れるのは、うちだけだから」
揺らぐことのない黒い瞳に迷いは見られない。
もう、大丈夫。
そう彼女の眼差しが言っていた。
ならば、無理やりここに留めるわけにはいかない。
「そう、か。わかった。ディセを呼ぶよ」
「待って」
首に巻かれたマフラーを僅かに緩めて、ルリは宝物である首飾りを外した。
目を瞬かせる少年の首にかけ、にっこりと微笑む。
「うん、似合う。うちの宝物。ルイカに上げる」
「大切なものなんじゃないのか?」
「宝物なら、新しくできたから」
そう言って、青いマフラーを首に巻き直す。
「その巻貝に耳を当てると、海の音が聞こえるの。青い石は私と同じ名前の瑠璃石だよ」
「本当にいいのか?」
「うん、ルイカは特別だから」
ルリは火照っている頬を隠すようにマフラーで口元を覆い、真っ白な海を見やった。
「また、いつか、この景色を一緒に見ようね」
「ああ。また、いつか、会おう。その日まで」
「絶対に」
「ルリのこと」
「ルイカのこと」
『忘れない』
「被ったね」
「そうだな」
かじかむルリの右手を取り、少年はそっと口付けを落とす。
「気を付けて」
「ん、ありがと」
絡めた指が名残惜しげに離れていく。
白い風が顔を掠めたと思うと、そこにはもうルリの姿は見えなかった。
「ルイカ……か……」
首飾りを見つめながら、想いが込められた名をそっと唇に乗せる。
特別な言霊。あの子だけが呼んでくれる大切な名前。
淡い微笑みを浮かべた少年――ルイカは、陽の光に融け込むようにその姿を消した。
* * *
ここは、世界の頂の麓村。
幼い少女が祖母の手を引き、高峰を指差す。
「あれー!? チョモランマが戻ってる!」
「世界で最も崇高なチョモランマが、一体どこへ消えるというんだい」
「昨日の夜は本当にいなかったんだって! いなかったっていうか、てっぺんがべこって凹んでた」
「雲に隠れておったのじゃよ」
「そんなことない! 絶っ対に見間違えじゃないもん! あれ……!? ねぇ、おばあちゃん、見て!」
「おや、どうしたかね」
「ほら、チョモランマのてっぺん! 青い星が落ちてる!」
「確かに頂上が光ってるのぅ……はて、まだ真昼時じゃが……」
「昼間のお月様と同じかなぁ~?」
日が山の向こうに沈むまで、その星は光り続けていた。
* * *
山に降り立った蒼星[ が、彼方へ旅立つ想い人を送り出す。
ここにいるから。ずっと、ずっと、ずっと。
地平線から最も高き頂に抱かれた瑠璃石は、眩[ いほど白い雪の中で煌々と瞬[ いていた。
Fin.
大自然の美しさと、二人の心情を表現できていればいいのですけどもorz
設定としましては、1800年代後半です。アイヌ民族が和人(日本)やソ連に踏み荒らされる頃。
まだまだ、ネパールもチベットも外国人の立ち入りを禁じていた時代。
エベレストっていう呼び名は1865年にイギリスで勝手に付けられるのですが、
その名が本人に届くのはだいぶ先の話になります。
この後1900年代に入り、エベレストはイギリスの独占時代を迎えます。
ネパールが鎖国中(1846~1949)で、チベットからしか登れなかった時代ですね。
ネパールの鎖国が解かれた後、ようやく世界中の人々がエベレストに挑めるようになったそうです。
こんなに色々と調べながら書いたのは初めてかも(ぉぃ
出てきた言葉のおさらい(文中に説明ないのも含めて)
ルイカ:橋(アイヌ語)
桜木の勝手な解釈で名前つけちゃって申し訳ないです、びたみんさん。
チョモランマ、エベレスト、サガルマータ、聖母峰、他にも色々ありましたが、
どれも呼び名としてしっくり来なくて……orz
こんなに色んな呼び方を各地でされていたら、
本人は複雑なんじゃないだろうか……という妄想の元生まれたお話。
でも彼をルイカと呼ぶのはルリだけだ! だから問題ないよね! ……と言い訳してみたり。
ルリ:海・海水(古アイヌ語)
瑠璃色の方が先に出来ていた設定。
瑠璃=ラピスラズリ。古代では「神に繋がる石」として儀式とかで使われていたらしい。
ルリってアイヌ語でなんだろうと調べたら、古い意味だけど、どんぴしゃり!
迷わず決定しました。
二人とも名前に「ル」が付くのは、「ル」はアイヌ語で「道」って意味があるからだよ!
二人は見えない道で繋がってるかr(強制終了
ディセ:雪(サンスクリット語) ※サンスクリット語はチベット語の元になった言語
びたみんさんの素敵イラストからどうしても鳥を出したくて。
ルイカ(エベレスト)と常に一緒にいる、一心同体といったら、何となく雪だなぁと思ったのです。
イラストは茶色っぽいですが、影ってことでどうか(←ダメ筆者
ちなみにチベット語で雪は「ガン」。音でこっちにしました;
合わせて「ガンディセ」っていう山脈の名前です。「雪の宝物」とも呼ばれてるとか。
この山脈もチベットと接していまして、南に走るヒマラヤ山脈、
それと並走する北のガンディセ山脈……らしいですよ!(無駄知識
ヒマラヤはサンスクリット語で「雪の棲み家」らしい。
チョモランマ:エベレストのこと(チベット語)
これは有名なので解説いらずですね!
無駄知識として、チョモはチベット語で「女神」、ランマは「三番目」。
直訳すると「三番目の女神」ですが、「母なる大地」や「雪の女神」等色々言われているようです。
いずれにしても「女」ですので、イラストの彼の名前にはできませんでした……w
おまけで、サガルマータ(ネパール語)は「大空の頭」とか「世界の頂上」らしい。
史実に基づきつつも、桜木ワールド(妄想とも言う)を展開するのは難しいもんでした……orz
しかも思えば恋愛小説初トライ(でも結局ファンタジー)……あぁ、穴があったら入りたいっ!
びたみんさん、素敵なお子様を貸していただき、ありがとうございました!
こんな出来ですみません!!!(土下座
一回読めば十分だと思いますが、お気に召したらお持ち帰り下さいませ。
「こんなもん持って帰れるか!」って突き返してくださってもOKです;
たった一本の蝋燭で照らされた小屋は、いつ大破してもおかしくないほどに震えていた。
外は風が吹き荒れる大嵐。まるで何か迫り来る者を拒むように、空も海も慟哭している。
「嫌な予感がする……」
一人小屋の中で膝を抱え、少女は哀しげに目尻を下げた。
肌身離さず持ち歩いている首飾りが、胸元で僅かに揺らぐ。
ペンダントトップは小さな巻貝。その巻貝と鎖の間に、小指の爪ほどの瑠璃石が仄かな光を帯びている。
巻貝をそっと耳に当てると、いくつもの音が彼女の耳に押し寄せた。
荒れた波の音。猛る風の音。微かな、鳥の鳴き声。
「違う。鳴いているんじゃない」
泣いている。
がばりと顔を上げて、外へ繋がる扉を見つめる。
「行かなきゃ」
自分自身を奮い立たせるように呟くと、少女は扉を開け放して外へ飛び出した。
雄叫びを上げる豪風が、少女の柔らかい黒髪を弄ぶ。白い肌には容赦なく雨滴が襲ってきた。
それでも彼女は足を止めない。右腕を額にかざし目を堪えながら、声の主を探す。
今行くから、泣かないで。
声を頼りに足を進めてきたが、もはや目の前は嵐の海だ。
くるりと辺りを見回しても、荒れ狂う大波に打たれている港には、人っ子ひとり見当たらない。
「どこ……どこで泣いているの? 助けに来たから、返事をして!」
荒波の音に負けじと大声を張り上げるが、返ってくるのは波と風の咆哮だけ。
瑠璃石の放つ光が途絶えていないのだから、どこかにいるはずなのに。
ぎゅっと巻貝を握り締め、少女は陸地ではなく海原へ視線を投じる。近くにいるとしたら、もうそこしかない。
少女を嘲笑うかのような向かい風と豪快にうねる高波。その大自然に挑んだ眼差しの先に、白が見え隠れする。
「あ……!」
いた。
暗い青に揉まれて今にも海底に引きずられそうな、真っ白な鳥が。
「もう少し待って! 今、助けるから!」
そう言い切らない内に靴を投げ出すと、
* * *
肌に刺さる冷たい風を全身で受けながら、少年は遥か彼方を眺めていた。
その表情は連なる高峰のように険しく、雪のように透き通る白い肌が彼の凛々しさを一層引き立ている。
「ん……」
虚空に響いた小さな声を聞いて、少年の腕に止まっていた鳥が忙しなく飛び立っていった。
落ちてきた白い羽を掴み取り、彼は傍らに横たわる少女を見つめる。
赤い衣に身を包んだ少女は、眠たげにあくびをしながらゆっくりと起き上がった。
涙目になった黒い瞳が、陽の光を受けてきらりと光る。つやのある黒髪が風に流れ、桃色の唇からこぼれる吐息が冷気で白く染まった。
顔にかかる横髪を耳にかける仕草が可愛らしい。どくりと鼓動が弾け、頬に熱が集まるのを自覚する。
滅多に人に会うことがないからだ。
そう決めつけて、努めて静かに声をかけた。
「目が、覚めたか?」
「うん……? あれ、キミは……」
しばらく少女は小首を傾げて目をこすっていたが、何かに気付いたのか、瞳を大きく見開く。
それと同時にすくっと立ち上がり、声を張り上げた。
「ああぁー!」
びりびりと大気を震わす大声が鼓膜を貫き、思わず少年は耳を押さえた。
気が付けば、彼女は目の前にいる。
「ど、どうした?」
突然詰め寄られたことに戸惑い、一歩片足を引いた。
何か気に触るようなことをしてしまったのだろうか。
「キミ、白い鳥さん見なかった!?」
「と、鳥がどうかしたのか?」
「昨日の夜、嵐の海で溺れている鳥さんを助けて、陸地まで戻ったと思ったら急に強い風が吹いて、気が付いたらキミがいて。その鳥さん見なかった? 雪みたいに真っ白の!」
「ああ……ディセのことか。お前が助けてくれたんだな。……悪かったな」
「え?」
「お前が助けたのは俺の鳥だ。怪我はない。さっきまた飛んでいった」
「そっか、飛べるんなら大丈夫だね! よかったぁ」
ふわりと微笑んで、少女は両手を上げて伸びをした。
「んー、空気が美味しいなぁ。とても澄んでいて、塩の味がしなくっ……て?」
「塩……?」
「――って、ひゃぁ!?」
「今度は何だ?」
怪訝そうに眉根を寄せ、再び大声を上げた彼女に尋ねる。
だが、その答えは返ってこなかった。少女は両目を大きく見開いたまま、文字通り固まっている。
「大丈夫か……?」
死にかけていたディセを連れ戻すためだとはいえ、実は半ば無理やりに彼女を攫ってきたのだ。もちろん意図せずに連れてきてしまった形ではあるが、罪悪感は拭えない。
もしかしたら、途中でどこかにぶつけてしまったのかもしれない。いや、何か大切な物を落としてしまったのかも。
泣かれる前に大人しく白状すべきだろうか。〝この景色〟に囲まれていたら、どう考えても隠し通すことは不可能だ。
すまなかった。すぐに帰すから。
そう謝らなきゃいけないと思う一方で、もう少しこのままでいたい気持ちが喉で言葉をせき止める。
でも、ここでは人は生きていけない。一緒に長くいれば、その分帰したくなくなるのだから。
今、伝えなければ。
「すまなかっ」
「すてき……」
「はぁ?」
意を決して声にした謝罪を遮られ、柄にもなく間抜けな声を上げてしまう。
一方少女は、そんな少年の葛藤にはまるで気付かずに、目の前に広がる〝この景色〟に心を奪われていた。
「お空の海は、こんなにきれいなんだね……」
どこまでも続く雲は、時折波のように揺らぎ、二人が立つ島に打ち寄せる。
それは、白い海。雲海。
島のように見えるこの場所は、遥か上空まで突き抜ける山の
頭上高くから降り注ぐ光を受けた島の影が、白い海に映っていた。
踏みしめる大地の色も白。辺り一面真っ白な雪だ。
透き通る青い空を除けば、ここは白の世界。
その世界に佇む二人だけが、鮮やかな彩りを添えていた。
「雲海、初めて見たのか?」
「うん。ずっと憧れてた。一生かかっても見られないと思ってた……それがこんなにきれいだったなんて。想像してたのより、ずっとずっとすてき」
〝この景色〟を見慣れている少年にとっては、すてき、と笑う少女の方が綺麗に見えた。
「こんな偽物の海より、本物の海の方が俺は……」
「どうして? こんなにきれいなのに……」
「所詮ここの海は紛い物だ。その海の中に生き物はいない。ただの雲に過ぎない。何も島に運んでくれない……」
こんな、こんな、孤独な世界よりも、ずっと。
大空を仰いで、少年は胸に秘めた想いを言の葉に乗せていく。
「青い海は強い。壮大で多くの生き物を育んでいる。世界の起源だ。俺もそんな風に、海のように強くありたい」
左手に持つ杖を握り締めて、雄大な海へと想いを馳せた。
そう、強くなりたい。
強くなれば、たった独りでも生きていける。
その高鳴る気持ちを否定するように、冷たい少女の声がやたらと大きく耳に響く。
「強くなんか……ないよ……」
苦しげに顔を歪めた少女は、目を瞠る少年の胸板に両拳を叩きつけ、泣き出しそうな声音で叫んだ。
「強くなんか! 海はちっとも強くなんか、壮大なんかじゃない!」
何をそんなに怒っているんだ。わからない。
「強くなんかない! 弱くて、みっともなくて、いつも誰かを傷つけて……!」
ぽたぽたとこぼれ落ちた彼女の涙が、少年の衣に染みを作る。
よく見るとそれは涙だけではなかった。彼女の髪からも衣服からも、まるで全身で泣くように水の雫が落ちていく。
そして震える拳が、肩が、声が、徐々に薄らいで――
「おい、お前、どうした!? しっかりしろ!」
少年は咄嗟に彼女の両肩を揺すった。
彼の手から離れた杖が雪に埋まり、一陣の風が山頂を吹き抜けた。
「もう、帰らなきゃ。これ以上ここにはいられない」
「だったら、俺が……ディセに、ディセに送らせるから!」
「ありがと。でも、もう無理だよ。時間がない」
「時間がないって」
大粒の涙を浮かべながら、少女は精一杯の笑顔を作り、少年に向けた。
「長く海から……自分から離れ過ぎた」
あぁ……そうか……
同じだ。自分と。
離れようとする彼女の腕を強引に引き寄せる。
身につけていたマフラーを外して、驚く彼女の首にかけた。
「悪かった。無理やり連れてきて」
すっぽりと少年の腕に収まった少女に色が戻っていく。
「うそ……どうして、戻ったの? 水になりかけていたのに……」
「お前がオホーツク海なら、俺は何だと思う?」
「じゃぁキミは……この山なの……?」
問い返しには答えずに、少年は少女の髪を撫でながら想いを口にする。
「俺は好きなんだ。海がずっと前から」
「え……?」
彼女を帰す前に、何とかして伝えたい。
海の偉大さを。ずっと焦がれている想いを。
「俺はここから動けないから、もう一人の俺であるディセで世界中の海を見て回っていたんだ」
「じゃぁ……あの白い鳥さんも……」
「お前が助けてくれなかったら、俺は今ここにいないだろうな。ディセは俺だから、きっとディセが死んだら俺も……それでもよかったんだ。ここでずっと誰かを待つより、大好きな海に溶けてしまう方が」
「そ、そんなのって!」
「それくらい好きなんだ、俺は」
真っ直ぐな眼差しを向けられた少女の頬が赤く染まった。
「そ、そんな風に言ってもらえたの、初めて」
でも、と目尻を下げて、彼女は語る。
「海は、怖いんだよ。色んな国の人が、船に乗ってやって来る。遊びに来るわけでもないし、友達になりに来るわけでもない。あの土地がほしいから。自分たちの住む場所は十分あるのに、それでも土地を、国をほしがるの」
再び涙を流しながら、少女は少年に懺悔を続けた。
「だから海がなければ、あの港のみんなも穏やかに暮らせたかもしれない。国境を……海を、うちをまたいでいるから、あんなに、ひどいことができるんだよっ……自分の、仲間じゃないから……」
一息吸って、濡れた顔を少年の胸に埋める。
「うち、自分のこと嫌いだった。誰も守れなくって、弱くって。誰に優しくすればいいのかわかんなくて。誰かを守るためには、誰かを犠牲にしなきゃいけなくて。迷っていたら、大切な友達も守れなかった……」
少年は少女の苦渋を無言で聞いていた。崩れ落ちそうな彼女を両腕で支えながら。
「だ、からっ、だから、せめて嵐の日に、助けを求めてる声を探して、罪滅ぼしをしてる気になってたの……」
「そうか……」
きっと彼女も、自分と同じように誰にも心情を言えずに苦しんでいたのだろう。
人は、自分と違うモノを恐れるから。
だから人の振りをして。少しでも温もりに触れたくて。
その温もりに触れれば触れるほど、己の非力を嘆いていたのだろう。
「ありがとう……話を聞いてくれて」
「いや、何も助けれやれなくて、すまなかった。知らずに傷つけたな」
「そ、そんなことないよ! 嬉しかったんだよ、うち、好きだって言ってもらえて……う、海のことだから、うちだけのことじゃないけど!」
驚いたり、笑ったり、慌てたり、そうころころ表情を変える彼女が素直に可愛いと思った。
滅多に会えない人だからではなく、憧れている海だからでもなく。
「お前、名前は?」
「うちの? うちはルリ。アイヌ語で海って言う意味だって、昔初めて友達になってくれた子が付けてくれたの」
「ルリか。じゃぁ言い直すよ」
「え、何を?」
きょとんとするルリにいたずらな笑みを向けると、少年は彼女の耳元で小さく呟いた。
「俺はルリが好きなんだ」
震える彼女の吐息が耳をくすぐる。
互いの温もりから伝わる鼓動。それだけが早鐘のように鳴り響き、二人の時を止めていた。
できることなら、ずっとこのままでいたい。叶わない願いでも今だけは――
どれくらいそうしていただろうか。
長い沈黙の後に、ルリが口を開いた。
「キミの、名前は?」
「名前、か……。俺にはわからない。色々呼ばれているけど、どれが俺の名前なのか、俺は知らない」
「そっか……」
「お前なら、この山をなんて呼ぶ?」
ルリが住む地からはこの山は見えない。
しばらく考え込んだ後、彼女は柔らかい笑みを浮かべた。
「ルイカ。うちの……アイヌの言葉で、橋という意味なの」
「橋……」
「うん。この山は国と国を繋いでいる。それも、チベットとネパールだけじゃなくて、世界中を繋いでいる山だから。きっと多くの人がこの景色を見たくて、この山に憧れていると思う」
「ここがどこだか、わかるのか?」
「うん。雪が教えてくれたの。ここは世界の頂だって。キミと同じように、この山はいろんな名前があるけど、ルイカってうちはそう呼ぶかな」
彼女がそう呼んでくれるなら。
「じゃぁそれが、俺の名前だ。俺はここだから」
ルリは一瞬目を見開いたが、すぐにまた微笑んだ。
「ルイカ……?」
「何?」
少年の頬を両手で包み、僅かに首を傾げて想いを告げる。
「うちも、ルイカが好き」
「え、な……にを、いきなり……」
「あ、ルイカ赤くなった。ほっぺがあったかくなった」
「な……」
無邪気なルリに呑まれ、言葉が出てこない。
嬉しいはずなのに、胸が締め付けられるほど辛い。
だって、だって、彼女は。
「ずるいよ。ルイカはうちに好きって言ってくれたのに、うちはルイカのこと好きになっちゃダメなの?」
「そんなんじゃ、ない。けど……」
ずっと傍にいられるわけじゃない。
こうして触れていられることが、じきに叶わなくなる。
「もう……帰らなくちゃいけないんだろ?」
笑顔を向けてくれる彼女を離したくない。このまま、帰したくない。
それが望んではいけないことだと思っていても。
「ここにいちゃだめなのか? 俺の物を、俺を身に付けていれば、ここでもそのままでいられる。だから」
「ありがと……このマフラー、大切にする。でも」
一旦言葉を区切って、ルリは目を伏せる。
そして首を横に振ると、ゆっくりと瞼を上げて少年を見上げた。
「でも、やっぱり帰らなきゃ。あの港の人たちを守れるのは、うちだけだから」
揺らぐことのない黒い瞳に迷いは見られない。
もう、大丈夫。
そう彼女の眼差しが言っていた。
ならば、無理やりここに留めるわけにはいかない。
「そう、か。わかった。ディセを呼ぶよ」
「待って」
首に巻かれたマフラーを僅かに緩めて、ルリは宝物である首飾りを外した。
目を瞬かせる少年の首にかけ、にっこりと微笑む。
「うん、似合う。うちの宝物。ルイカに上げる」
「大切なものなんじゃないのか?」
「宝物なら、新しくできたから」
そう言って、青いマフラーを首に巻き直す。
「その巻貝に耳を当てると、海の音が聞こえるの。青い石は私と同じ名前の瑠璃石だよ」
「本当にいいのか?」
「うん、ルイカは特別だから」
ルリは火照っている頬を隠すようにマフラーで口元を覆い、真っ白な海を見やった。
「また、いつか、この景色を一緒に見ようね」
「ああ。また、いつか、会おう。その日まで」
「絶対に」
「ルリのこと」
「ルイカのこと」
『忘れない』
「被ったね」
「そうだな」
かじかむルリの右手を取り、少年はそっと口付けを落とす。
「気を付けて」
「ん、ありがと」
絡めた指が名残惜しげに離れていく。
白い風が顔を掠めたと思うと、そこにはもうルリの姿は見えなかった。
「ルイカ……か……」
首飾りを見つめながら、想いが込められた名をそっと唇に乗せる。
特別な言霊。あの子だけが呼んでくれる大切な名前。
淡い微笑みを浮かべた少年――ルイカは、陽の光に融け込むようにその姿を消した。
* * *
ここは、世界の頂の麓村。
幼い少女が祖母の手を引き、高峰を指差す。
「あれー!? チョモランマが戻ってる!」
「世界で最も崇高なチョモランマが、一体どこへ消えるというんだい」
「昨日の夜は本当にいなかったんだって! いなかったっていうか、てっぺんがべこって凹んでた」
「雲に隠れておったのじゃよ」
「そんなことない! 絶っ対に見間違えじゃないもん! あれ……!? ねぇ、おばあちゃん、見て!」
「おや、どうしたかね」
「ほら、チョモランマのてっぺん! 青い星が落ちてる!」
「確かに頂上が光ってるのぅ……はて、まだ真昼時じゃが……」
「昼間のお月様と同じかなぁ~?」
日が山の向こうに沈むまで、その星は光り続けていた。
* * *
山に降り立った
ここにいるから。ずっと、ずっと、ずっと。
地平線から最も高き頂に抱かれた瑠璃石は、
Fin.
大自然の美しさと、二人の心情を表現できていればいいのですけどもorz
設定としましては、1800年代後半です。アイヌ民族が和人(日本)やソ連に踏み荒らされる頃。
まだまだ、ネパールもチベットも外国人の立ち入りを禁じていた時代。
エベレストっていう呼び名は1865年にイギリスで勝手に付けられるのですが、
その名が本人に届くのはだいぶ先の話になります。
この後1900年代に入り、エベレストはイギリスの独占時代を迎えます。
ネパールが鎖国中(1846~1949)で、チベットからしか登れなかった時代ですね。
ネパールの鎖国が解かれた後、ようやく世界中の人々がエベレストに挑めるようになったそうです。
こんなに色々と調べながら書いたのは初めてかも(ぉぃ
出てきた言葉のおさらい(文中に説明ないのも含めて)
ルイカ:橋(アイヌ語)
桜木の勝手な解釈で名前つけちゃって申し訳ないです、びたみんさん。
チョモランマ、エベレスト、サガルマータ、聖母峰、他にも色々ありましたが、
どれも呼び名としてしっくり来なくて……orz
こんなに色んな呼び方を各地でされていたら、
本人は複雑なんじゃないだろうか……という妄想の元生まれたお話。
でも彼をルイカと呼ぶのはルリだけだ! だから問題ないよね! ……と言い訳してみたり。
ルリ:海・海水(古アイヌ語)
瑠璃色の方が先に出来ていた設定。
瑠璃=ラピスラズリ。古代では「神に繋がる石」として儀式とかで使われていたらしい。
ルリってアイヌ語でなんだろうと調べたら、古い意味だけど、どんぴしゃり!
迷わず決定しました。
二人とも名前に「ル」が付くのは、「ル」はアイヌ語で「道」って意味があるからだよ!
二人は見えない道で繋がってるかr(強制終了
ディセ:雪(サンスクリット語) ※サンスクリット語はチベット語の元になった言語
びたみんさんの素敵イラストからどうしても鳥を出したくて。
ルイカ(エベレスト)と常に一緒にいる、一心同体といったら、何となく雪だなぁと思ったのです。
イラストは茶色っぽいですが、影ってことでどうか(←ダメ筆者
ちなみにチベット語で雪は「ガン」。音でこっちにしました;
合わせて「ガンディセ」っていう山脈の名前です。「雪の宝物」とも呼ばれてるとか。
この山脈もチベットと接していまして、南に走るヒマラヤ山脈、
それと並走する北のガンディセ山脈……らしいですよ!(無駄知識
ヒマラヤはサンスクリット語で「雪の棲み家」らしい。
チョモランマ:エベレストのこと(チベット語)
これは有名なので解説いらずですね!
無駄知識として、チョモはチベット語で「女神」、ランマは「三番目」。
直訳すると「三番目の女神」ですが、「母なる大地」や「雪の女神」等色々言われているようです。
いずれにしても「女」ですので、イラストの彼の名前にはできませんでした……w
おまけで、サガルマータ(ネパール語)は「大空の頭」とか「世界の頂上」らしい。
史実に基づきつつも、桜木ワールド(妄想とも言う)を展開するのは難しいもんでした……orz
しかも思えば恋愛小説初トライ(でも結局ファンタジー)……あぁ、穴があったら入りたいっ!
びたみんさん、素敵なお子様を貸していただき、ありがとうございました!
こんな出来ですみません!!!(土下座
一回読めば十分だと思いますが、お気に召したらお持ち帰り下さいませ。
「こんなもん持って帰れるか!」って突き返してくださってもOKです;
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2010/09/11 (Sat) 22:57 |
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[バトン]レンジャーバトン
氷ヶ峰こはくさんより、ご指名を頂きましたので、
仕事&執筆の息抜きにやりたいと思います~。
仕事&執筆の息抜きにやりたいと思います~。
【レンジャーバトン】
★身長は?
158cm
★髪型は?
肩甲骨あたりまでの黒髪ストレート。
★好きな髪型は?
自分としては真っ直ぐが好き。
好みなタイプは短髪のツンツン頭ですがw
★目について
黒目が大半を占める二重~三重です(´・ω・`)
生まれたときは黒目しかなく、母上いわく「宇宙人」だったらしい。
その目の大きさが災いして視力は最悪です。
★誰かに似てる?
さぁ……
周囲の人に例えられるモノが軒並み小動物系なんだけど……何か違う気がする……w
★1日で好きな時間は?
寝る直前の妄想時間(マテ
★自分はどんな風に見られてる?
変人……の割に変にこだわりが強い子だと思われているようです。
不思議ちゃんとか、おとなしそうに見えて実はズバズバ言う子とか(by 会社の先輩方
★送り主の第一印象は?
色んなおはなしを書いているんだなぁと感心しました。
★送り主のこと好き?
言わずもがなw
★送り主との出会いは?
確か桜木がこっそり遊びに行って、ファンタジー小説に釣られてコメント残したのだと思いますw
★送り主のことをどう思う?
リアルも充実していそうだなぁというイメージです。
★送り主を動物に例えると?
うーん、渡り鳥? 何となく、海外とかも行っていたような気が……
★恋してますか?
友人の影響でTOVに恋してます(マテ
★その人はどんな人?
ダークヒーローっていいですよね(ぁ
★バトンを回す人を指名
例の如くフリーとします。
代わりにオリキャラのイメージカラーを当てはめてみました♪
・紫…
・緑…アキラ
・桃…ミズナ
・黒…ピエール
・赤…ルーティング(どっちかっていうと紅
・青…ショウゴ(どっちかっていうと蒼
・黄…アズウェル(黄色というか金だけど
・紺…
・黄緑…ラキィ,リル(ラキィは淡緑、リルはエメラルドグリーン
・白…ディオウ,スニィ
・灰…
・橙…ロウド
あまり当てはまらなかった……
はっきりした色をあまり使わないせいでしょうねw
★身長は?
158cm
★髪型は?
肩甲骨あたりまでの黒髪ストレート。
★好きな髪型は?
自分としては真っ直ぐが好き。
好みなタイプは短髪のツンツン頭ですがw
★目について
黒目が大半を占める二重~三重です(´・ω・`)
生まれたときは黒目しかなく、母上いわく「宇宙人」だったらしい。
その目の大きさが災いして視力は最悪です。
★誰かに似てる?
さぁ……
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★1日で好きな時間は?
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変人……の割に変にこだわりが強い子だと思われているようです。
不思議ちゃんとか、おとなしそうに見えて実はズバズバ言う子とか(by 会社の先輩方
★送り主の第一印象は?
色んなおはなしを書いているんだなぁと感心しました。
★送り主のこと好き?
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リアルも充実していそうだなぁというイメージです。
★送り主を動物に例えると?
うーん、渡り鳥? 何となく、海外とかも行っていたような気が……
★恋してますか?
友人の影響でTOVに恋してます(マテ
★その人はどんな人?
ダークヒーローっていいですよね(ぁ
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例の如くフリーとします。
代わりにオリキャラのイメージカラーを当てはめてみました♪
・紫…
・緑…アキラ
・桃…ミズナ
・黒…ピエール
・赤…ルーティング(どっちかっていうと紅
・青…ショウゴ(どっちかっていうと蒼
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・白…ディオウ,スニィ
・灰…
・橙…ロウド
あまり当てはまらなかった……
はっきりした色をあまり使わないせいでしょうねw
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2010/09/11 (Sat) 21:05 |
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