[戯言]製本しました
このために、これを17日に某親友に渡すために……ボクは1ヶ月半生きてきた。
ドン!

ドン!

某キャラのモデルである親友のための誕生日プレゼントです。
親友、編集者(友人)、作者(ボク)、計三冊しか世界に存在しない本となります。
このためにPrologueから書き直したようなものですw
収録作は『禍月の舞(1~31話+想うが故に)』と『フライテリアの休日』です。
ホントは『Crystal』と『雪うさぎ』も突っ込みたかったし、イラストももっと増やしたかったのですが、
何分時間がない。そして製本可能ページ数460にして、PDFにしたのは459ページ分という事態に。
四六版サイズで、厚さは2センチ以上あります、軽く。結構重いです!
こんなに過去の私は執筆していたのだなぁと思うと、感慨深かったです。
もちろん、仕事(本業:社会人)もしながら夜眠い目をこすり、「間に合わない」と叫びながら、
編集担当を買って出てくれた友人に激励されながら、何とかギリギリ間に合った形ですので、
誤字脱字が結構ありますorz この辺りは次回作(編集担当の誕生日プレゼント)への課題ですね!
使ったのは、FC2のブログ書籍化機能となっているブログ出版局様。
はっきりと断言します、小説(或いは縦書き)を書籍化するならここしかありません!
縦中横(!!とか!?とか)が可能なブログ書籍化会社はここだけでした。
それだけではなく、発送まで入金後3日という驚異的スピード。このお陰で誕生会に間に合いました。
更に更に、問い合わせをしてから返信までが速い、そして丁寧!
12日の深夜に送った「17日まで届くのに間に合いますか?」なんていう子供じみた問い合わせにも、
わざわざ社内会議でギリギリ間に合う可能性のある時間を打ち合わせして、ご回答して頂けました。
そして、サイトには「到着日時の指定はできません」と書かれているにも関わらず、
「今回プレゼント用のためどうしても夕方までに間に合わせたい」と要望を出したら、
当日の午前指定で発送してくれました。
次回ここ以外使う可能性はありません、と断言できるくらい素敵な会社です。
あと本に画像を入れるときに、ブログ記事がサムネイルで書かれていた場合、
自動でリンク先の画像を使ってくれるので仕上がりの画質が綺麗です。逆に元が小さいと荒くなります。
もし、記念に作成してみたいという方は、貯金して試してみるといいと思います。
さて、長々と綴りましたが、出来はというと。
カバーを取るとこんな感じになっておりまして。

中表紙はこんな感じ。

自前でイラストの中表紙作りました。

薄くて見えないですね、orz 実際はもっと綺麗です!
中身は……

まず、目次。空の写真を使いました。
この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件などには、ほとんど関係がありません。
ほとんど(*・ω・)……
他にも……

扉だったり、おまけだったり、

実際の中身はこんな感じとなりまして……
巻末には!

携帯の画質の悪さを呪った……。
でも、本物の本のようで(いや、本物ですけど……売ってるヤツみたいで!)凄いです。感動です。
親友も大層驚き、喜んでくれました。サプライズ成功してよかったよかった……!
そんなこんなで、ワツキ編を製本してしまいました。なかなか楽しかったです、きつかった分。
誤字脱字も「まぁいっかw」と思えてしまうくらい、立派でした。
最後に、実はカラーだった自作中表紙を置いておきます。

↑クリックで拡大。
そんなもの好きさんはいないと思いますが、一応復活記念フリーイラストとしておきます。
ではでは、これからも、改めて、桜木とDISERDを宜しくお願い致します!
親友、編集者(友人)、作者(ボク)、計三冊しか世界に存在しない本となります。
このためにPrologueから書き直したようなものですw
収録作は『禍月の舞(1~31話+想うが故に)』と『フライテリアの休日』です。
ホントは『Crystal』と『雪うさぎ』も突っ込みたかったし、イラストももっと増やしたかったのですが、
何分時間がない。そして製本可能ページ数460にして、PDFにしたのは459ページ分という事態に。
四六版サイズで、厚さは2センチ以上あります、軽く。結構重いです!
こんなに過去の私は執筆していたのだなぁと思うと、感慨深かったです。
もちろん、仕事(本業:社会人)もしながら夜眠い目をこすり、「間に合わない」と叫びながら、
編集担当を買って出てくれた友人に激励されながら、何とかギリギリ間に合った形ですので、
誤字脱字が結構ありますorz この辺りは次回作(編集担当の誕生日プレゼント)への課題ですね!
使ったのは、FC2のブログ書籍化機能となっているブログ出版局様。
はっきりと断言します、小説(或いは縦書き)を書籍化するならここしかありません!
縦中横(!!とか!?とか)が可能なブログ書籍化会社はここだけでした。
それだけではなく、発送まで入金後3日という驚異的スピード。このお陰で誕生会に間に合いました。
更に更に、問い合わせをしてから返信までが速い、そして丁寧!
12日の深夜に送った「17日まで届くのに間に合いますか?」なんていう子供じみた問い合わせにも、
わざわざ社内会議でギリギリ間に合う可能性のある時間を打ち合わせして、ご回答して頂けました。
そして、サイトには「到着日時の指定はできません」と書かれているにも関わらず、
「今回プレゼント用のためどうしても夕方までに間に合わせたい」と要望を出したら、
当日の午前指定で発送してくれました。
次回ここ以外使う可能性はありません、と断言できるくらい素敵な会社です。
あと本に画像を入れるときに、ブログ記事がサムネイルで書かれていた場合、
自動でリンク先の画像を使ってくれるので仕上がりの画質が綺麗です。逆に元が小さいと荒くなります。
もし、記念に作成してみたいという方は、貯金して試してみるといいと思います。
さて、長々と綴りましたが、出来はというと。
カバーを取るとこんな感じになっておりまして。

中表紙はこんな感じ。

自前でイラストの中表紙作りました。

薄くて見えないですね、orz 実際はもっと綺麗です!
中身は……

まず、目次。空の写真を使いました。
この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件などには、ほとんど関係がありません。
ほとんど(*・ω・)……
他にも……

扉だったり、おまけだったり、

実際の中身はこんな感じとなりまして……
巻末には!

携帯の画質の悪さを呪った……。
でも、本物の本のようで(いや、本物ですけど……売ってるヤツみたいで!)凄いです。感動です。
親友も大層驚き、喜んでくれました。サプライズ成功してよかったよかった……!
そんなこんなで、ワツキ編を製本してしまいました。なかなか楽しかったです、きつかった分。
誤字脱字も「まぁいっかw」と思えてしまうくらい、立派でした。
最後に、実はカラーだった自作中表紙を置いておきます。

↑クリックで拡大。
そんなもの好きさんはいないと思いますが、一応復活記念フリーイラストとしておきます。
ではでは、これからも、改めて、桜木とDISERDを宜しくお願い致します!
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2010/07/19 (Mon) 19:46 |
- 戯言 |
- Comment: 7 |
- - | [Edit]
- ▲
DISERD extra chapter*読み切り 『フライテリアの休日』
此処はエンプロイ。ディザード大陸の北部への入り口だ。
レンガで築かれた店が建ち並び、普段は見られない三角形の旗が、あちこちにはためいている。
「うっへぇ~、今回は随分と度派手にやるんだなぁ~」
明日は盛大な秋祭りが行われる。数日前から外との交流を遮断し、エンプロイでは店と店が手を取り合って準備を行っていた。
「こんな辺境に回ってくることは滅多にないからだろう」
ディザード大陸では街々が交代に四季の祭りを開催している。今秋はエンプロイが主催というわけだ。
「ディオウ、今日は堂々と街歩けるなっ」
金髪の少年は隣を歩いている純白の獣に笑顔を向ける。
「街の住人しかいないからな。で、アズウェル、今日は何しに来たんだ? 食料は買えないぞ」
アズウェルと呼ばれた少年は頭の後ろで両手を組み、嬉々とした声音で言った。
「スチリディーさんとこ手伝いに行こうと思ってさ」
「バイトか。何でおれまで連れてきたんだ」
「え、いいじゃん。こんな機会滅多にないんだし」
けろりと答えた飼い主に、聖獣ディオウは小さく息を吐き出す。
本来、聖獣であるディオウは街中を歩くことはできない。目立ちすぎるからだ。
街の民しかいない今日は特別な日だった。
ディオウとしては、日課という名の睡眠したかったのが本音。
斜めに見上げたアズウェルの目が、キラキラと輝いている。
ディオウと街を歩けることが余程嬉しかったのだろう。
「……今日だけだぞ」
「え? 今なんか言った?」
ぼそりと呟いた言葉は、アズウェルに届かなかった。
二度も念を押すのは気が引ける。
ディオウは首を振って、嘆息した。
「いや……何でもない」
「何だよ?」
「別に何でもない。気にするな」
「言わなきゃわかんねぇぞ?」
「だから何でもないと……」
「おや、アズウェル君!」
そうこう話している内に、目的の店に着いたようだ。
店主のスチリディーが埃叩きを持って二人の元へ駆けてくる。
「ちょうどいいところに来てくれた! 今日はディオウも一緒なのかい」
「うん、街の人たちだけだからさ」
そうかそうかと頷いて、スチリディーは満面の笑みで言った。
「リペイヤーの依頼が溜まってるのだよ。パッパと直してくれ」
「えぇー? 店は閉まってるんじゃねぇの?」
「こういうときは、より繁盛するのだよ」
飄々 と言ってのけるスチリディーに、ディオウは呆れた眼差しを向ける。
「貴様で直せないくせに、ほいほいと引き受けるとは愚かだな」
「大丈夫だよ、アズウェル君がいるからねぇ」
「他力本願とは情けないな」
ディオウが目を細めた、その時。
「ふげぇぁ!!」
店の中からカエルが潰れたような声がした。
「アズウェル、どうし……」
喉元まで出た言葉をごくりと飲み込む。
答えを聞かずとも、その光景を見れば明らかだった。
「ちょっと、スチリディーさん!? これ全部おれが直すの!?」
「その通りだよ、アズウェル君。今日の夕暮れまでにな」
「えぇ !?」
アズウェルは積み上げられたズタボロフレイトの山を見上げる。
数十台……いや、百台近くはあるだろう。
「アズウェル、帰るぞ」
不機嫌丸出しの声で言うディオウに、アズウェルは苦笑いを浮かべた。
「それがさ……今日、ボーナス日なんだよ……」
「アズウェル君、それ全部終わらなかったら給料半額だよ」
実にさらりと、まるで流れる小川の如くさらりと放たれた言葉に、アズウェルはビシッという音を立てて固まる。
間。
「ぼ、ボーナス半額っ!?」
「半額だとまずいのか?」
普段アズウェルがどれくらい手取りをもらっているのか知らないディオウが、首を傾げた。
「あのね……」
がくりと両肩を落とし、アズウェルは深く嘆息する。
「これ、半額になったら、当分ディオウ肉無しな」
「な、何ぃ!?」
瞳を白黒させて固まる聖獣を部屋の端に追いやり、アズウェルはズタボロフレイトを睨みつける。
「とにかく、夕暮れまでにやりゃぁいいんだろ? やってやるよ、肉無しなんておれもごめんだ!」
ジャケットを脱ぎ、腕まくりをする。左手に耐火性の手袋を装着し、右手でスパナを握りしめる。
準備完了だ。
「見てろ、必ず終わらせてやる!!」
意気込むアズウェルの瞳には、闘志という名の炎が燃え上がっていた。
手際よくリペイヤー、つまり修理をこなしていく愛弟子を見つめて、スチリディーはにやりとほくそ笑む。
「単純とはいいものだ」
さて、と。
安楽椅子に腰掛け、新聞を広げる。片手には入れ立ての珈琲。
まさにゆとり体勢である。
視線を横に滑らせると、ズタボロフレイトと必死に睨めっこをしているアズウェルが見て取れた。
めらめらと青い炎を上げるバーナーを右手で操り、左手で凹んだ金属を加工していく。
平らにしたものをバケツの水に浸すと、シューッと蒸気が立ち上がった。
「これはここで冷ましておいて……こっちはコアがいかれてるのか」
「アズウェル、終わるのか?」
「ディオウ、邪魔っ!!」
乱暴に片手を振って、ディオウを遠ざける。
ディオウはしょんぼりと耳を垂らし、尻尾を一振りした。
「おれは寝ているぞ」
「ったく、どう乗り回せばここが破損するんだよっ!」
「……終わったら教えろ」
溜息混じりに力なく呟く。
「そもそもスチリディーさん、どこからこんなに集めてきたんだ?」
眉根を寄せて唸るアズウェルの背を見つめて、ディオウは再び嘆息する。
その背中には「邪魔をするな」と書かれていた。
壁際に寝そべり、三度目の大きな溜息が無意識に起こる。
交差させた前足の上に顎を乗せ、聖獣は瞼を閉じた。
そんな二人のやり取りを一部始終眺めていた店主は、にやにやと顎[ をしゃくった。
「少々熱すぎるようだね……」
アズウェルの熱気は店中に充満していた。
椅子から立ち上がり、左手の窓を開ける。
「風が心地よいの」
〝Flytelia〟と書かれた赤い旗が、秋風と共に踊っていた。
正午過ぎ。
フライテリアに一人の青年が訪ねてきた。
「おい、スチリディー。何だ、この有様は」
「おやおや、珍しい来客だねぇ」
腕を組み仁王立ちしている青年は、紅い瞳をすがめてフレイトの山を顎で指す。
「ここ数日は商売禁止のはずだぞ」
「わしは商売はしていないよ。修理依頼を引き受けただけさ」
「それも商[ いに値する」
眼光が険しくなる。
左目は眼帯で覆われているため右目だけだが、その気迫は凄まじかった。
「問題ないよ。引き渡しは皆祭りが終わった後だからの」
気迫をひらりとかわし、スチリディーは陽気な笑い声を上げる。
青年の頭の中で何かが切れる音がした。
「貴様……!」
「スチリディーさん!」
緊迫した空気に少年の声が割ってはいる。
「あー! おまえ! ……えーっと、ん~っと……うー……そうだ、ルーティング!!」
金髪の少年がびしっと青年を指差した。
「貴様誰だ?」
「おれはここでバイトしているアズウェルだっ! おまえ、前にもここに来ただろ! いちゃもんつけに!!」
「言いがかりを……俺はこいつの不正を正しに来ただけだ」
今度は青年がスチリディーを指差す。
「ほほっ、わしは何も不正なんぞしてないよ」
ほけほけと笑うスチリディーに、眼帯の青年、ルーティングのこめかみに青筋が浮かぶ。
「もうあんたはいいからさ! こんなやつよりスチリディーさん、おれの話聞いてよ!」
「何だい? アズウェル君」
「おい、スチリディー」
「あんさー、これのここ、これこれ。金属カバーごと取っ替えなきゃいけねぇんだけど、材料がたりねぇ」
「それは困ったのぉ。ではその分はボーナスからカットということで」
「うげ!?」
素っ頓狂な声を上げて硬直する弟子の頭を、店主が優しく撫でる。
「はは、冗談だよ。部品は後で注文しておくからそれは後回しでいいからの」
「……おい!」
「はぁ、びっくりした。それとさ、細いドライバーない? コアの部分直すのには、おれのヤツじゃ太すぎて傷つけちゃうから」
「あぁそれなら工具箱の中にあったかの」
「俺の話を聞けぇ!!」
自分を蚊帳の外に放り出して話を進める二人に、ルーティングが拳を震わせ、怒声を張り上げる。
が、それよりも凄まじい怒号が、入口付近で佇む三人の耳朶[ を貫いた。
「うるさいぞ、ガキ!!」
両眼をぱちくりさせているアズウェルたちの後方から、不機嫌度満点のディオウが三人の前にのっそりと現れた。
「アズウェルはそこの瓦礫[ の山を夕暮れまでに片付けなきゃならないんだ。貴様などの相手をしている暇はない」
「せ……聖獣?」
ルーティングの一つしかない瞳が大きく見開かれた。
思わず頬が引きつる。
つい最近エンプロイに店を開いたルーティングは、ディオウと初対面だったのだ。
両者が互い最悪のに第一印象を心に刻み込んだことは言うまでもなく。
「おれの睡眠を妨げたな、クソガキ」
「く……クソガキだと? 俺はフレイト協会の会長に頼まれてスチリディーを連れに来ただけだ」
「なっ! スチリディーさん誘拐しようとしてる!?」
「違う!!」
「うるさいと言ってるだろ! ガキ! 食うぞ!!」
賑やかに騒ぎ立てる三人 正確には二人と一頭を尻目に、スチリディーは安楽椅子に腰を下ろす。
実に愉快だ。丸一日眺めていても飽きはしない。
「平和だのぅ」
当分は続くだろう。
カップに熱い珈琲を注ぎ、店主は満足げに微笑んだ。
◇ ◇ ◇
「それでな、祭りの時フライテリアは喫茶店の代わりになるから、店内を片付けなくちゃいけなくて、結局ルーティングも手伝ってさ」
「に、兄さまが手伝い……? 片付いたのか?」
腕組みをして壁に背を預けているマツザワが問いかける。
茶袱台[ の周りを囲んでいるアキラやユウも、アズウェルの話を興味津々に聞いていた。
「もう少しーって所までいったんだけど……」
アズウェルが横で寝そべる聖獣に視線を送ると、応じるように長い尾がぴしりと一振りされた。
「あの馬鹿店主が余計なことをしたんだ」
さも嫌そうに毒づくディオウの瞳は半月になっていた。
◇ ◇ ◇
大分片付いた。
残りの台数も一桁になり、アズウェルとルーティングは額の汗を拭う。
「あと僅かだな」
「うっひゃあ~。頑張れば終わるもんだなぁ」
ほっと一息ついていた彼らの前に、スキップをしながらスチリディーがやって来た。
「もう少しかね。どれわしも……」
「え?」
「おい」
血の気が下がった二人を気にすることもなく、ズタボロフレイトの一つに手を掛ける。
「これくらいならわしでも……」
「あ!! スチリディーさん、それはっ……!」
「まずい、小僧頭を下げろ!」
刹那、眩[ い光が迸[ った。
轟音が街道を伝って街中に響き渡る。
行き交う人々が「またか」と言わんばかりに肩を竦[ める。
店の中は破片が飛び散り、黒い煙が視界を覆っていた。
「ごほ、げほっ……」
「アズウェル、大丈夫か?」
「う、うん。なんとか……ディオウサンキュ」
のろのろとディオウの下から出ると、上から下まで真っ黒な煤[ まみれのルーティングが隣にいた。
「……スチリディー、貴様っ」
「もしかして、振り出しに戻っちゃったとか……?」
失笑したアズウェルに、ディオウが唸る。
「いつもこんなに危険な場所でバイトをしているのか」
「まぁ、こんなもんかなぁ。今日はまだマシかも」
純白の獣も墨色に染め上げられ、半眼でスチリディーを見据える。
当人はと言うと。
「おや、随分と汚れてしまったねぇ。ルーティング君、アズウェル君、日暮れまでに掃除しておいとくれ」
「はぁ!? 何ぃ!?」
名指しされた二人の声が異口同音に重なる。
「じゃあよろしく」
ほけほけと笑って、店主はすす入りの珈琲を口に入れる。
「いい加減にしろ っ!!」
二人と一頭の怒号が一つになり、斜陽の差したエンプロイを駆け抜けた。
◇ ◇ ◇
「なかなかええキャラしてますなぁ、店主はん」
「そうか? スチリディー殿は掴み所がなくて骨が折れるぞ」
「大変だったのですね……」
しかしそれにしても。
「リュウ兄が……」
「兄さまが……」
「リュウジさんが……」
そこまで言ってアキラ、マツザワ、ユウは互いに顔を見合わせた。
「あん時のルーティングの顔は面白かったなぁ~」
声を上げて笑うアズウェルの背後に、黒い影が差す。
「あの時の小僧はお前か」
「げ。ルーティング……」
爆発事件以来、顔を合わせていなかったため、ルーティングはアズウェルの名前まで覚えていなかったのだ。
徐々に眉間の皺[ が深くなる。
がしりとアズウェルの襟元[ を掴み、大股でアキラの部屋を出て行く。
「え、ちょっと放せよ!?」
「おい、貴様、アズウェルをどこに連れて行く気だ!」
食いつきそうな勢いのディオウに冷たい視線を送り、低い声音で返した。
「小僧は外傷ないのだろう?」
「え、うん」
「それがどうした」
「だが、敵に一度呑まれただろう」
「う……」
「それは……」
言葉に詰まった二人に、ルーティングは止めの一言を突きつける。
「修行だ」
「ひぃ !!」
「何ぃ !?」
風に乗って聞こえてきた二人の悲鳴に、アキラたちは苦笑した。
Fin.
レンガで築かれた店が建ち並び、普段は見られない三角形の旗が、あちこちにはためいている。
「うっへぇ~、今回は随分と度派手にやるんだなぁ~」
明日は盛大な秋祭りが行われる。数日前から外との交流を遮断し、エンプロイでは店と店が手を取り合って準備を行っていた。
「こんな辺境に回ってくることは滅多にないからだろう」
ディザード大陸では街々が交代に四季の祭りを開催している。今秋はエンプロイが主催というわけだ。
「ディオウ、今日は堂々と街歩けるなっ」
金髪の少年は隣を歩いている純白の獣に笑顔を向ける。
「街の住人しかいないからな。で、アズウェル、今日は何しに来たんだ? 食料は買えないぞ」
アズウェルと呼ばれた少年は頭の後ろで両手を組み、嬉々とした声音で言った。
「スチリディーさんとこ手伝いに行こうと思ってさ」
「バイトか。何でおれまで連れてきたんだ」
「え、いいじゃん。こんな機会滅多にないんだし」
けろりと答えた飼い主に、聖獣ディオウは小さく息を吐き出す。
本来、聖獣であるディオウは街中を歩くことはできない。目立ちすぎるからだ。
街の民しかいない今日は特別な日だった。
ディオウとしては、日課という名の睡眠したかったのが本音。
斜めに見上げたアズウェルの目が、キラキラと輝いている。
ディオウと街を歩けることが余程嬉しかったのだろう。
「……今日だけだぞ」
「え? 今なんか言った?」
ぼそりと呟いた言葉は、アズウェルに届かなかった。
二度も念を押すのは気が引ける。
ディオウは首を振って、嘆息した。
「いや……何でもない」
「何だよ?」
「別に何でもない。気にするな」
「言わなきゃわかんねぇぞ?」
「だから何でもないと……」
「おや、アズウェル君!」
そうこう話している内に、目的の店に着いたようだ。
店主のスチリディーが埃叩きを持って二人の元へ駆けてくる。
「ちょうどいいところに来てくれた! 今日はディオウも一緒なのかい」
「うん、街の人たちだけだからさ」
そうかそうかと頷いて、スチリディーは満面の笑みで言った。
「リペイヤーの依頼が溜まってるのだよ。パッパと直してくれ」
「えぇー? 店は閉まってるんじゃねぇの?」
「こういうときは、より繁盛するのだよ」
「貴様で直せないくせに、ほいほいと引き受けるとは愚かだな」
「大丈夫だよ、アズウェル君がいるからねぇ」
「他力本願とは情けないな」
ディオウが目を細めた、その時。
「ふげぇぁ!!」
店の中からカエルが潰れたような声がした。
「アズウェル、どうし……」
喉元まで出た言葉をごくりと飲み込む。
答えを聞かずとも、その光景を見れば明らかだった。
「ちょっと、スチリディーさん!? これ全部おれが直すの!?」
「その通りだよ、アズウェル君。今日の夕暮れまでにな」
「えぇ
アズウェルは積み上げられたズタボロフレイトの山を見上げる。
数十台……いや、百台近くはあるだろう。
「アズウェル、帰るぞ」
不機嫌丸出しの声で言うディオウに、アズウェルは苦笑いを浮かべた。
「それがさ……今日、ボーナス日なんだよ……」
「アズウェル君、それ全部終わらなかったら給料半額だよ」
実にさらりと、まるで流れる小川の如くさらりと放たれた言葉に、アズウェルはビシッという音を立てて固まる。
間。
「ぼ、ボーナス半額っ!?」
「半額だとまずいのか?」
普段アズウェルがどれくらい手取りをもらっているのか知らないディオウが、首を傾げた。
「あのね……」
がくりと両肩を落とし、アズウェルは深く嘆息する。
「これ、半額になったら、当分ディオウ肉無しな」
「な、何ぃ!?」
瞳を白黒させて固まる聖獣を部屋の端に追いやり、アズウェルはズタボロフレイトを睨みつける。
「とにかく、夕暮れまでにやりゃぁいいんだろ? やってやるよ、肉無しなんておれもごめんだ!」
ジャケットを脱ぎ、腕まくりをする。左手に耐火性の手袋を装着し、右手でスパナを握りしめる。
準備完了だ。
「見てろ、必ず終わらせてやる!!」
意気込むアズウェルの瞳には、闘志という名の炎が燃え上がっていた。
手際よくリペイヤー、つまり修理をこなしていく愛弟子を見つめて、スチリディーはにやりとほくそ笑む。
「単純とはいいものだ」
さて、と。
安楽椅子に腰掛け、新聞を広げる。片手には入れ立ての珈琲。
まさにゆとり体勢である。
視線を横に滑らせると、ズタボロフレイトと必死に睨めっこをしているアズウェルが見て取れた。
めらめらと青い炎を上げるバーナーを右手で操り、左手で凹んだ金属を加工していく。
平らにしたものをバケツの水に浸すと、シューッと蒸気が立ち上がった。
「これはここで冷ましておいて……こっちはコアがいかれてるのか」
「アズウェル、終わるのか?」
「ディオウ、邪魔っ!!」
乱暴に片手を振って、ディオウを遠ざける。
ディオウはしょんぼりと耳を垂らし、尻尾を一振りした。
「おれは寝ているぞ」
「ったく、どう乗り回せばここが破損するんだよっ!」
「……終わったら教えろ」
溜息混じりに力なく呟く。
「そもそもスチリディーさん、どこからこんなに集めてきたんだ?」
眉根を寄せて唸るアズウェルの背を見つめて、ディオウは再び嘆息する。
その背中には「邪魔をするな」と書かれていた。
壁際に寝そべり、三度目の大きな溜息が無意識に起こる。
交差させた前足の上に顎を乗せ、聖獣は瞼を閉じた。
そんな二人のやり取りを一部始終眺めていた店主は、にやにやと
「少々熱すぎるようだね……」
アズウェルの熱気は店中に充満していた。
椅子から立ち上がり、左手の窓を開ける。
「風が心地よいの」
〝Flytelia〟と書かれた赤い旗が、秋風と共に踊っていた。
正午過ぎ。
フライテリアに一人の青年が訪ねてきた。
「おい、スチリディー。何だ、この有様は」
「おやおや、珍しい来客だねぇ」
腕を組み仁王立ちしている青年は、紅い瞳をすがめてフレイトの山を顎で指す。
「ここ数日は商売禁止のはずだぞ」
「わしは商売はしていないよ。修理依頼を引き受けただけさ」
「それも
眼光が険しくなる。
左目は眼帯で覆われているため右目だけだが、その気迫は凄まじかった。
「問題ないよ。引き渡しは皆祭りが終わった後だからの」
気迫をひらりとかわし、スチリディーは陽気な笑い声を上げる。
青年の頭の中で何かが切れる音がした。
「貴様……!」
「スチリディーさん!」
緊迫した空気に少年の声が割ってはいる。
「あー! おまえ! ……えーっと、ん~っと……うー……そうだ、ルーティング!!」
金髪の少年がびしっと青年を指差した。
「貴様誰だ?」
「おれはここでバイトしているアズウェルだっ! おまえ、前にもここに来ただろ! いちゃもんつけに!!」
「言いがかりを……俺はこいつの不正を正しに来ただけだ」
今度は青年がスチリディーを指差す。
「ほほっ、わしは何も不正なんぞしてないよ」
ほけほけと笑うスチリディーに、眼帯の青年、ルーティングのこめかみに青筋が浮かぶ。
「もうあんたはいいからさ! こんなやつよりスチリディーさん、おれの話聞いてよ!」
「何だい? アズウェル君」
「おい、スチリディー」
「あんさー、これのここ、これこれ。金属カバーごと取っ替えなきゃいけねぇんだけど、材料がたりねぇ」
「それは困ったのぉ。ではその分はボーナスからカットということで」
「うげ!?」
素っ頓狂な声を上げて硬直する弟子の頭を、店主が優しく撫でる。
「はは、冗談だよ。部品は後で注文しておくからそれは後回しでいいからの」
「……おい!」
「はぁ、びっくりした。それとさ、細いドライバーない? コアの部分直すのには、おれのヤツじゃ太すぎて傷つけちゃうから」
「あぁそれなら工具箱の中にあったかの」
「俺の話を聞けぇ!!」
自分を蚊帳の外に放り出して話を進める二人に、ルーティングが拳を震わせ、怒声を張り上げる。
が、それよりも凄まじい怒号が、入口付近で佇む三人の
「うるさいぞ、ガキ!!」
両眼をぱちくりさせているアズウェルたちの後方から、不機嫌度満点のディオウが三人の前にのっそりと現れた。
「アズウェルはそこの
「せ……聖獣?」
ルーティングの一つしかない瞳が大きく見開かれた。
思わず頬が引きつる。
つい最近エンプロイに店を開いたルーティングは、ディオウと初対面だったのだ。
両者が互い最悪のに第一印象を心に刻み込んだことは言うまでもなく。
「おれの睡眠を妨げたな、クソガキ」
「く……クソガキだと? 俺はフレイト協会の会長に頼まれてスチリディーを連れに来ただけだ」
「なっ! スチリディーさん誘拐しようとしてる!?」
「違う!!」
「うるさいと言ってるだろ! ガキ! 食うぞ!!」
賑やかに騒ぎ立てる三人
実に愉快だ。丸一日眺めていても飽きはしない。
「平和だのぅ」
当分は続くだろう。
カップに熱い珈琲を注ぎ、店主は満足げに微笑んだ。
◇ ◇ ◇
「それでな、祭りの時フライテリアは喫茶店の代わりになるから、店内を片付けなくちゃいけなくて、結局ルーティングも手伝ってさ」
「に、兄さまが手伝い……? 片付いたのか?」
腕組みをして壁に背を預けているマツザワが問いかける。
「もう少しーって所までいったんだけど……」
アズウェルが横で寝そべる聖獣に視線を送ると、応じるように長い尾がぴしりと一振りされた。
「あの馬鹿店主が余計なことをしたんだ」
さも嫌そうに毒づくディオウの瞳は半月になっていた。
◇ ◇ ◇
大分片付いた。
残りの台数も一桁になり、アズウェルとルーティングは額の汗を拭う。
「あと僅かだな」
「うっひゃあ~。頑張れば終わるもんだなぁ」
ほっと一息ついていた彼らの前に、スキップをしながらスチリディーがやって来た。
「もう少しかね。どれわしも……」
「え?」
「おい」
血の気が下がった二人を気にすることもなく、ズタボロフレイトの一つに手を掛ける。
「これくらいならわしでも……」
「あ!! スチリディーさん、それはっ……!」
「まずい、小僧頭を下げろ!」
刹那、
轟音が街道を伝って街中に響き渡る。
行き交う人々が「またか」と言わんばかりに肩を
店の中は破片が飛び散り、黒い煙が視界を覆っていた。
「ごほ、げほっ……」
「アズウェル、大丈夫か?」
「う、うん。なんとか……ディオウサンキュ」
のろのろとディオウの下から出ると、上から下まで真っ黒な
「……スチリディー、貴様っ」
「もしかして、振り出しに戻っちゃったとか……?」
失笑したアズウェルに、ディオウが唸る。
「いつもこんなに危険な場所でバイトをしているのか」
「まぁ、こんなもんかなぁ。今日はまだマシかも」
純白の獣も墨色に染め上げられ、半眼でスチリディーを見据える。
当人はと言うと。
「おや、随分と汚れてしまったねぇ。ルーティング君、アズウェル君、日暮れまでに掃除しておいとくれ」
「はぁ!? 何ぃ!?」
名指しされた二人の声が異口同音に重なる。
「じゃあよろしく」
ほけほけと笑って、店主はすす入りの珈琲を口に入れる。
「いい加減にしろ
二人と一頭の怒号が一つになり、斜陽の差したエンプロイを駆け抜けた。
◇ ◇ ◇
「なかなかええキャラしてますなぁ、店主はん」
「そうか? スチリディー殿は掴み所がなくて骨が折れるぞ」
「大変だったのですね……」
しかしそれにしても。
「リュウ兄が……」
「兄さまが……」
「リュウジさんが……」
そこまで言ってアキラ、マツザワ、ユウは互いに顔を見合わせた。
「あん時のルーティングの顔は面白かったなぁ~」
声を上げて笑うアズウェルの背後に、黒い影が差す。
「あの時の小僧はお前か」
「げ。ルーティング……」
爆発事件以来、顔を合わせていなかったため、ルーティングはアズウェルの名前まで覚えていなかったのだ。
徐々に眉間の
がしりとアズウェルの
「え、ちょっと放せよ!?」
「おい、貴様、アズウェルをどこに連れて行く気だ!」
食いつきそうな勢いのディオウに冷たい視線を送り、低い声音で返した。
「小僧は外傷ないのだろう?」
「え、うん」
「それがどうした」
「だが、敵に一度呑まれただろう」
「う……」
「それは……」
言葉に詰まった二人に、ルーティングは止めの一言を突きつける。
「修行だ」
「ひぃ
「何ぃ
風に乗って聞こえてきた二人の悲鳴に、アキラたちは苦笑した。
Fin.
[あとがき]DISERD ~禍月の舞~
旧名ワツキ編、〝DISERD ~禍月の舞~〟UP完了致しました。
ほんっっっっっっとにしんどいスケジュールでした。理由はこちらを御覧ください。
今回のあとがきは、主に旧ブログからの読者様宛に記載しております。
旧ブログにおいて、ワツキ編は
Act1:第1~8記
Act2:第9~17記
番外編:想うが故に(5話構成:~+epilogue)
Act3:第18~25記
Act4:第26~32記
となっておりました。改稿、加筆修正に伴い、以下のような章立てになっております。
「ワツキ編」→「禍月の舞」
禍月の舞 前夜:第1~16記
禍月の舞 中夜*想うが故に:月、影、風、華、after episode
禍月の舞 後夜:第17~31記
大筋に変更はございませんが、1話から重要なシーンが追加されていたりします。
流し読み程度でも構いませんので、また目を通していただけたらと思います。
以前よりは読みやすくなった、と信じたい……!
ということで、あとがきとさせていただきます。
今後は旧名禁断編、〝DISERD ~禁を断つ者~〟(DISERD 第2部)を連載していく予定です。
間でばばばっと、雪うさぎや陽炎をUPすることもあるかと思います。
いずれにしても旧ブログ掲載分はそこまで変更ありませんが、のんびりとお付き合いいただけたら幸いです。
2010年7月17日 桜木凪音
ほんっっっっっっとにしんどいスケジュールでした。理由はこちらを御覧ください。
今回のあとがきは、主に旧ブログからの読者様宛に記載しております。
旧ブログにおいて、ワツキ編は
Act1:第1~8記
Act2:第9~17記
番外編:想うが故に(5話構成:~+epilogue)
Act3:第18~25記
Act4:第26~32記
となっておりました。改稿、加筆修正に伴い、以下のような章立てになっております。
「ワツキ編」→「禍月の舞」
禍月の舞 前夜:第1~16記
禍月の舞 中夜*想うが故に:月、影、風、華、after episode
禍月の舞 後夜:第17~31記
大筋に変更はございませんが、1話から重要なシーンが追加されていたりします。
流し読み程度でも構いませんので、また目を通していただけたらと思います。
以前よりは読みやすくなった、と信じたい……!
ということで、あとがきとさせていただきます。
今後は旧名禁断編、〝DISERD ~禁を断つ者~〟(DISERD 第2部)を連載していく予定です。
間でばばばっと、雪うさぎや陽炎をUPすることもあるかと思います。
いずれにしても旧ブログ掲載分はそこまで変更ありませんが、のんびりとお付き合いいただけたら幸いです。
2010年7月17日 桜木凪音
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2010/07/17 (Sat) 08:55 |
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DISERD extra chapter*読み切り 『想うが故に 〝another episode〟』
「たっちゃぁ~ん」
間抜けな声呼んでいる。
神社から戻った俺を待ち受けていたのは、酒に酔ったショウゴだった。
「お前、飲み過ぎだ」
「たっちゃんが遅いからぁー。あ、ねーねー。オレっちのことまさって呼んでよー」
「は?」
またいきなり訳がわからないことを言い始めた。それは酔っていても酔っていなくても同じか。
「ほらぁ、たっちゃんの字は龍[ って書くでしょー」
リュウジは宙に龍と描いてみせる。
「だからなんだ」
「だから、たっちゃん~」
……そうだったのか。
「んでー、オレっちは将[ って書くでしょー」
「だからまさと呼べと」
「そーいうことぉ~」
俺にまでふざけろと言うのか、このお気楽人は。
「ねーねー、まさって呼んでぇ~」
どれくらい飲んだのか知らないが、いつもに増して厄介なショウゴに俺はお手上げ状態だった。
「あ! そうだー、たっちゃん~。さっきリンゴ飴買ったのー」
「……そうか」
「たっちゃん、食べてぇ~」
「……俺は甘いものは苦手だ」
いつもなら、「えー」というくらいで済むのだが、今日はそういうわけにはいかなかった。
「ほらぁ、たっちゃん。あ~んしてー」
「いらん。離れろ……」
「せっかく買ったのにぃ~」
いいからさっさと離れろ。
次の瞬間、俺は究極の二択を迫られる。
「あ! ねぇ、たっちゃん!」
「あ?」
「オレっちのことまさって呼ぶか~、このリンゴ飴ぱくーってしてぇ~」
……俺に死ねと言っている。
この時ほど、ショウゴの頭上に水龍様を降ろしたくなったことはない。
両方断る。などと言えば更なる仕打ちを仕掛けてくるに決まっている。
ショウゴは実に愉快だと言わんばかりに鼻唄を歌っていた。
「……まさ、わかったから離れてくれ」
にやりとショウゴが笑みを浮かべる。
「わぁ~い。これからオレっちはたっちゃん、たっちゃんはまさって呼び合うんだよぉー」
俺が完全に敗北を喫した一戦だった。
「わかった……わかった……」
今にして思えば、これも良い思い出と言えるだろうが、当時の俺には屈辱以外何ものでもなかったのだ。
間抜けな声呼んでいる。
神社から戻った俺を待ち受けていたのは、酒に酔ったショウゴだった。
「お前、飲み過ぎだ」
「たっちゃんが遅いからぁー。あ、ねーねー。オレっちのことまさって呼んでよー」
「は?」
またいきなり訳がわからないことを言い始めた。それは酔っていても酔っていなくても同じか。
「ほらぁ、たっちゃんの字は
リュウジは宙に龍と描いてみせる。
「だからなんだ」
「だから、たっちゃん~」
……そうだったのか。
「んでー、オレっちは
「だからまさと呼べと」
「そーいうことぉ~」
俺にまでふざけろと言うのか、このお気楽人は。
「ねーねー、まさって呼んでぇ~」
どれくらい飲んだのか知らないが、いつもに増して厄介なショウゴに俺はお手上げ状態だった。
「あ! そうだー、たっちゃん~。さっきリンゴ飴買ったのー」
「……そうか」
「たっちゃん、食べてぇ~」
「……俺は甘いものは苦手だ」
いつもなら、「えー」というくらいで済むのだが、今日はそういうわけにはいかなかった。
「ほらぁ、たっちゃん。あ~んしてー」
「いらん。離れろ……」
「せっかく買ったのにぃ~」
いいからさっさと離れろ。
次の瞬間、俺は究極の二択を迫られる。
「あ! ねぇ、たっちゃん!」
「あ?」
「オレっちのことまさって呼ぶか~、このリンゴ飴ぱくーってしてぇ~」
……俺に死ねと言っている。
この時ほど、ショウゴの頭上に水龍様を降ろしたくなったことはない。
両方断る。などと言えば更なる仕打ちを仕掛けてくるに決まっている。
ショウゴは実に愉快だと言わんばかりに鼻唄を歌っていた。
「……まさ、わかったから離れてくれ」
にやりとショウゴが笑みを浮かべる。
「わぁ~い。これからオレっちはたっちゃん、たっちゃんはまさって呼び合うんだよぉー」
俺が完全に敗北を喫した一戦だった。
「わかった……わかった……」
今にして思えば、これも良い思い出と言えるだろうが、当時の俺には屈辱以外何ものでもなかったのだ。
第31記 澄み切った空
暗い部屋を照らす灯りは、僅か一本の蝋燭。
揺らめく灯りの向こうに、長いシルクハットが見える。
「しくじったのか」
「いえ、手は打って来マシタ。なかなかいい手駒になりマスよ」
「そうか。……しっかしてめぇは、十年前もあの紅の龍にやられたんじゃないのか?」
「いえ、今回は。紅の龍……必ずや貴方様の手中に収めてみせマスよ」
不気味な笑い声が石造りの部屋に反響した。
「期待しているぞ」
「有り難きお言葉デス。それよりも……」
玉座で寛[ ぐ少年の耳元で、シルクハットの男が囁く。
「……あの男が動いたか」
「紅の龍は配下にされておりマス」
「少々厄介だな」
黒いリンゴを手に取り、忌々しげに少年はそれを投げつけた。
ぐしゃりという音と共に、壁に掛けられた地図に朱色が飛び散る。
「次はここだ」
「仰せの通りに」
瞳を三日月に形に歪め、闇の傀儡師[ は口端を吊り上げた。
◇ ◇ ◇
大地に散乱している欠片を一つ手に取り、ルーティングは低く唸った。
「やはり、傀儡か……」
『十年前と同じだな』
クエンの言葉に、過去の凄惨[ な光景が呼び起こされる。
ピエールが〝本体〟で来たことは未だかつて一度もない。
奴は常に、己の形[ をした〝人形〟で〝遊び〟に来るのだ。
「いつか……」
この手で。
決意新たに、ルーティングは人形の肉片を握り潰した。
◇ ◇ ◇
「役立たずな傀儡師め!」
舌打ちをすると、ネビセは族長コウキを一瞥する。
「次はないと思いな!」
錫杖を地に叩きつけたネビセを、鴉[ たちが覆い尽し、主の姿を霧散させる。
慌ただしく飛び立っていく無数の鴉を睨みつけ、コウキは眉間に皺[ を刻み込んだ。
「二度と来るな……」
『コウキ』
ガンゲツが視線をコウキの後方へ送る。その視線が示す先を顧みる。
其処には、爽やかな微笑を浮かべた栗毛の少年が立っていた。
◇ ◇ ◇
漆黒の鴉が一羽飛んで来た。
『戻れ。傀儡師が破られた。撤退命令だ』
それだけ伝えると、鴉はエレクの肩を鷲掴みにする。
爪が食い込み、反論は許さないという気迫が伝わってきた。
「わかったよ。……命拾いしたね、ミスター・ヒウガ」
口惜しそうに黒薔薇の香[ を聴く。
すっと目を細めた時、エレクは黒き砂となり、風に巻かれて飛んでいった。
「くそっ……!」
大地を覆う黒い砂。
朽ち果てた己の右腕を、左手で握り締める。
エレクは、本気を出していない。
全く歯が立たなかった。
「ユンア……セロ……!」
そして ……
悔しさをぎりっと歯で噛み締め、ヒウガは前方を見据える。
「必ず仇は……!」
憎悪と哀傷が綯[ い交[ ぜになった彼の頬を、穏やかな風が撫でた。
◇ ◇ ◇
「そ……ソウ……」
佇む背中は、何も言わない。静かすぎて余計に怖い。
その背中は確実に怒気を表していた。
「っ……!」
謝らなくてはならないのに、喉が塞がったように声が出なかった。
空気が、凍てついたように痛い。後悔という名の鎖が、ショウゴを締め付けた。
ふいに、ソウエンが口を開く。
『ショウゴ』
抑揚のない声音が、竹林によく通った。
全身がびくりと凍り付く。
自分は、嫌われてしまったかもしれない。
それだけのことを言った。
『眠い』
「え……」
『寝る。当分起こすな』
怒るどころか、いつも通りの態度だ。
予想外のことに、口をぱかりと開けたままショウゴは動けなくなる。
『いいか、起こしたらただで済むと思うな』
「も、もし、起こしたら……?」
『起こしたら、だと? 丸焦げにしてやる』
不機嫌度満点だが、その声は怒っていなかった。
『俺は眠いんだ。もう話しかけるな』
半眼にした瞳をショウゴに向けて、ソウエンは霞[ の如く姿を消した。
一人取り残された形になったショウゴは、微かに囁く。
「どうせなら怒ってくれればいいのに……」
その方がまだいい。
いつもは短気なソウエンが何故怒らないのだろうか。
『僅かでも負い目に感じるなら、二度とするな。餓鬼』
頭の中でぶっきらぼうな声が鳴った。
「やっぱり、怒ってるよね……」
『俺より、後でリュウジに怒鳴られる覚悟をしておけ。間違えても俺に泣きついてくるな』
それを最後に、ソウエンの声は途絶える。
どうやら、今度こそ眠りについたらしい。
「たっちゃんに……クエンに燃やされちゃうかもなぁ~……」
肺の中が空になるまで息を吐き出し、小さく呟いた。
「ソウ、ありがと」
◇ ◇ ◇
笑顔が集まってくる。
マツザワに肩を借りたアキラの姿を見つけて、アズウェルが歓喜の声を上げた。
「マツザワ、アキラ!!」
嬉々として駆け出したアズウェルの後を、ユウたちも追う。
「アキラ、やっぱ生きてた!!」
「あんさんのお陰やで」
「へ……?」
目をぱちくりさせて首を傾げるアズウェルに、アキラはただ微笑みを浮かべるだけだった。
その横で、ユウがマツザワの右腕を治療する。
「じきに、動かせるようになります」
「ありがとう、ユウ」
解毒を済ませると、ユウはアキラへと視線を移す。
その満身創痍な身体を見て、顔を顰[ めると同時に声を荒げた。
「アキラさん! 何ですか、その傷は!!」
「え、あぁ、これはなぁ……」
助けを求めるようにマツザワを見るが、先程泣きはらした彼女の瞳は赤く、睨みつけてくるだけだ。
「マツザワさんも目が赤いし、どういうことなんですか!?」
「ゆ、ユウ。アキラも大変みたいだったんだし……」
大方予想が付くアズウェルが助け船を出す。が、しかし。
「アズウェルさん、貴方もです!!」
「へ?」
「ディオウさんたちがどれほど心配したと思っているんですか!?」
アズウェルがちらりと背後を顧みると、ディオウとラキィが睨みを利かせていた。
恐らく、怒っている。
周り中に睨まれて、背中合わせになったアズウェルとアキラは、どちらともなく溜息をついた。
待つ方も大変なことは、百も承知二百も合点。
とはいえ、当事者も決して自ら危機を招いた訳でもない。
しかしそんなことを言おうものなら、また非難の嵐が降り掛かるだろう。
下手に反論できない二人が思い描いた言葉は、降参の意を示していた。
参った、とはこういう時に使うのだ。
両者は共に右手で頭を掻きながら、天を振り仰ぐ。
「あ……晴れてる」
「ええ天気やなぁ」
二人につられて、ディオウたちも空を見上げる。
「ほんと、よく晴れているわねぇ」
ラキィがくすりと笑みを零[ した。
それに皆が同意する。
今まで黒雲に覆われていたのが嘘のようで。
澄み切った青空が続いていた。
揺らめく灯りの向こうに、長いシルクハットが見える。
「しくじったのか」
「いえ、手は打って来マシタ。なかなかいい手駒になりマスよ」
「そうか。……しっかしてめぇは、十年前もあの紅の龍にやられたんじゃないのか?」
「いえ、今回は。紅の龍……必ずや貴方様の手中に収めてみせマスよ」
不気味な笑い声が石造りの部屋に反響した。
「期待しているぞ」
「有り難きお言葉デス。それよりも……」
玉座で
「……あの男が動いたか」
「紅の龍は配下にされておりマス」
「少々厄介だな」
黒いリンゴを手に取り、忌々しげに少年はそれを投げつけた。
ぐしゃりという音と共に、壁に掛けられた地図に朱色が飛び散る。
「次はここだ」
「仰せの通りに」
瞳を三日月に形に歪め、闇の
◇ ◇ ◇
大地に散乱している欠片を一つ手に取り、ルーティングは低く唸った。
「やはり、傀儡か……」
『十年前と同じだな』
クエンの言葉に、過去の
ピエールが〝本体〟で来たことは未だかつて一度もない。
奴は常に、己の
「いつか……」
この手で。
決意新たに、ルーティングは人形の肉片を握り潰した。
◇ ◇ ◇
「役立たずな傀儡師め!」
舌打ちをすると、ネビセは族長コウキを一瞥する。
「次はないと思いな!」
錫杖を地に叩きつけたネビセを、
慌ただしく飛び立っていく無数の鴉を睨みつけ、コウキは眉間に
「二度と来るな……」
『コウキ』
ガンゲツが視線をコウキの後方へ送る。その視線が示す先を顧みる。
其処には、爽やかな微笑を浮かべた栗毛の少年が立っていた。
◇ ◇ ◇
漆黒の鴉が一羽飛んで来た。
『戻れ。傀儡師が破られた。撤退命令だ』
それだけ伝えると、鴉はエレクの肩を鷲掴みにする。
爪が食い込み、反論は許さないという気迫が伝わってきた。
「わかったよ。……命拾いしたね、ミスター・ヒウガ」
口惜しそうに黒薔薇の
すっと目を細めた時、エレクは黒き砂となり、風に巻かれて飛んでいった。
「くそっ……!」
大地を覆う黒い砂。
朽ち果てた己の右腕を、左手で握り締める。
エレクは、本気を出していない。
全く歯が立たなかった。
「ユンア……セロ……!」
そして
悔しさをぎりっと歯で噛み締め、ヒウガは前方を見据える。
「必ず仇は……!」
憎悪と哀傷が
◇ ◇ ◇
「そ……ソウ……」
佇む背中は、何も言わない。静かすぎて余計に怖い。
その背中は確実に怒気を表していた。
「っ……!」
謝らなくてはならないのに、喉が塞がったように声が出なかった。
空気が、凍てついたように痛い。後悔という名の鎖が、ショウゴを締め付けた。
ふいに、ソウエンが口を開く。
『ショウゴ』
抑揚のない声音が、竹林によく通った。
全身がびくりと凍り付く。
自分は、嫌われてしまったかもしれない。
それだけのことを言った。
『眠い』
「え……」
『寝る。当分起こすな』
怒るどころか、いつも通りの態度だ。
予想外のことに、口をぱかりと開けたままショウゴは動けなくなる。
『いいか、起こしたらただで済むと思うな』
「も、もし、起こしたら……?」
『起こしたら、だと? 丸焦げにしてやる』
不機嫌度満点だが、その声は怒っていなかった。
『俺は眠いんだ。もう話しかけるな』
半眼にした瞳をショウゴに向けて、ソウエンは
一人取り残された形になったショウゴは、微かに囁く。
「どうせなら怒ってくれればいいのに……」
その方がまだいい。
いつもは短気なソウエンが何故怒らないのだろうか。
『僅かでも負い目に感じるなら、二度とするな。餓鬼』
頭の中でぶっきらぼうな声が鳴った。
「やっぱり、怒ってるよね……」
『俺より、後でリュウジに怒鳴られる覚悟をしておけ。間違えても俺に泣きついてくるな』
それを最後に、ソウエンの声は途絶える。
どうやら、今度こそ眠りについたらしい。
「たっちゃんに……クエンに燃やされちゃうかもなぁ~……」
肺の中が空になるまで息を吐き出し、小さく呟いた。
「ソウ、ありがと」
◇ ◇ ◇
笑顔が集まってくる。
マツザワに肩を借りたアキラの姿を見つけて、アズウェルが歓喜の声を上げた。
「マツザワ、アキラ!!」
嬉々として駆け出したアズウェルの後を、ユウたちも追う。
「アキラ、やっぱ生きてた!!」
「あんさんのお陰やで」
「へ……?」
目をぱちくりさせて首を傾げるアズウェルに、アキラはただ微笑みを浮かべるだけだった。
その横で、ユウがマツザワの右腕を治療する。
「じきに、動かせるようになります」
「ありがとう、ユウ」
解毒を済ませると、ユウはアキラへと視線を移す。
その満身創痍な身体を見て、顔を
「アキラさん! 何ですか、その傷は!!」
「え、あぁ、これはなぁ……」
助けを求めるようにマツザワを見るが、先程泣きはらした彼女の瞳は赤く、睨みつけてくるだけだ。
「マツザワさんも目が赤いし、どういうことなんですか!?」
「ゆ、ユウ。アキラも大変みたいだったんだし……」
大方予想が付くアズウェルが助け船を出す。が、しかし。
「アズウェルさん、貴方もです!!」
「へ?」
「ディオウさんたちがどれほど心配したと思っているんですか!?」
アズウェルがちらりと背後を顧みると、ディオウとラキィが睨みを利かせていた。
恐らく、怒っている。
周り中に睨まれて、背中合わせになったアズウェルとアキラは、どちらともなく溜息をついた。
待つ方も大変なことは、百も承知二百も合点。
とはいえ、当事者も決して自ら危機を招いた訳でもない。
しかしそんなことを言おうものなら、また非難の嵐が降り掛かるだろう。
下手に反論できない二人が思い描いた言葉は、降参の意を示していた。
両者は共に右手で頭を掻きながら、天を振り仰ぐ。
「あ……晴れてる」
「ええ天気やなぁ」
二人につられて、ディオウたちも空を見上げる。
「ほんと、よく晴れているわねぇ」
ラキィがくすりと笑みを
それに皆が同意する。
今まで黒雲に覆われていたのが嘘のようで。
澄み切った青空が続いていた。